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新釈四谷怪談:木下恵介



日本人は昔から怪談好きだったが、それは日本の夏の暑さと関係があったらしい。我々日本人は、今でこそエアコンで夏の暑さをしのげるようになったが、昔はそういうわけにもまいらず、我々の先祖・先輩たちは怪談話を聞いたり見たりしながら、暑気払いにあいつとめたものと見える。そんな怪談話の中でももっとも人気を博したのが「四谷怪談」だ。原作は鶴屋南北だが、そのほかにもいろいろなバージョンがあって、人々を怖がらせてきた。怖がることによって、ヒヤッとした冷気を味わってもらおうというわけであろう。

木下恵介も昭和二十四年に四谷怪談を手掛けている。これは「新釈」と題しているから、南北の原作をいくらかひねったものだ。どうひねっているのか。それを言うとネタバレになるが、差支えのない範囲で書くと次のようになる。

南北の原作では、欲に目のくらんだ民谷伊右衛門が女房のお岩を毒殺し、それを恨んだお岩が化けて出て伊右衛門を呪い殺すという設定であるが、この映画では、伊右衛門はたしかに欲に目がくらんでお岩を殺すのであるが、それは自分の真心からしたことではなく、悪党にそそのかされてのことで、その結果伊右衛門は自分の所業に心が惑乱し、お岩の幻想に悩まされる、ということになっている。つまり、お岩のほうから積極的に化けて出て来るというのではなく、伊右衛門が幻覚というかたちでお岩をおびき寄せるわけである。

四谷怪談というのは、お岩の怨念が最大の見どころで、その怨念が強ければこそ、見ている者もお岩に感情移入するわけであるが、その肝心のお岩が自分から化けて出るわけではなく、伊右衛門が幻想として招き寄せるとあっては、いささか拍子抜けになるところだ。

実際、この映画では、四谷怪談の見せどころと言われる有名なシーン、たとえば戸板返しとか、提灯抜けといった見せ場が出てこない。これらの見せ場こそお岩の怨念のすさまじさを物語るのであるから、それが出てこないでは、お岩の怨念にも迫力がない。

というわけでこの映画は、お岩よりも伊右衛門の苦悩に焦点を当てた結果、怪談としては中途半端なものにとどまっている。

なお、お岩とお岩の妹お袖とを田中絹代が二役で演じている。お岩が気の弱い女なのに対して、お袖は竹を割ったような気性の持ち主で当然気も強い。その二つの役柄のうち、お袖のほうが田中には似合っているように見えた。伊右衛門を上原謙が演じているが、これが悪党という感じよりも優男のイメージで、伊右衛門の定着しているイメージとはかけ離れている。その悪党ぶりという点では、滝沢修演じる牢破りのほうが本格的だ。




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