壺齋散人の 映画探検
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小津安二郎の世界:映画の鑑賞と批評


小津安二郎は、溝口健二と並んで、日本映画の黎明期を代表する偉大な映画監督である。溝口が主に、封建的な人間関係の中で抑圧される女性を描いたのに対して、小津安二郎は古い家族関係の解体していくさまを、抒情豊かに描き出した。

現存する小津映画でもっとも古い作品は「学生ロマンス若き日」だが、これは当時珍しかった学生の風俗をコメディタッチで描いたもので、戦前の小津映画の特徴であるコメディへの傾向が早くも現われた作品だ。この作品からは、小津がコメディ作家として出発したとの印象を強くする。

翌年の1930年には「その夜の妻」を作っている。これはアメリカ映画に強く影響されたモダニズムの作品で、こうした作風は「非常線の女」でも引きつがれた。初期の小津安二郎には、コメディとならんでモダニズムへの志向があったといえよう。

その後小津安二郎は、「東京の合唱」とか「東京の女」といった、失業者達をテーマにしたある種の社会派映画を作るようにもなったが、これは不景気雲がただよっていた時代の雰囲気を反映したものだ。しかしそうした映画においても、小津はユーモアの精神を忘れていない。

1934年には「浮草物語」を作った。これは小津安二郎の戦前の作品を代表する名作で、小津のみならず古き良き時代の日本映画の代表作とも見なされている。そういう視点から山田洋次は、この映画をテーマにして「キネマの天地」を作り、小津自身もリメーク版を作っている。このリメーク版も、中村鴈治郎と京マチ子の演技が光っており、日本の映画史を飾る名作である。

戦後の小津安二郎は、日本の家族の解体過程を、情感を込めて描くようになるが、その先駆けとなったのが戦時中の作品「戸田家の兄妹」である。これあるブルジョワ家庭が崩壊するさまを描いたもので、戦後の一連の作品とはまた異なった雰囲気を醸し出しているが、日本人の家族のつながりのもろさを描いたという点では、家族への小津安二郎のこだわりが色濃く表れた作品である。

戦後になっていちはやく作った作品は、「長屋紳士録」と「風の中の雌鶏」で、いづれも小津としては珍しく、社会的な視点に貫かれている。特に「風の中の雌鶏」は、戦争によって人生をずたずたにされた女性の不幸を描いており、その点では「夜の女たち」を通じて戦争への批判意識をぶつけた溝口健二と同じような心意気を感じさせる。

1949年の作品「晩春」は、家族をテーマにした小津安二郎の戦後の一連の作品のさきがけとなるもので、以後、「麦秋」、「東京物語」へと続いていく。「東京物語」は、日本映画のみならず世界の映画のなかでも最高傑作のひとつとの評価が高い。こうした映画のかたわら、「お早よう」のようなホーム・コメディも作っており、小津映画の懐の広さを感じさせる。

世界の映画界において、小津安二郎はもっとも影響力を及ぼした作家の一人として評価されている。かれの影響力の主な要素はその技術的な面にあった。近代映画の技術的な特徴は、モンタージュとかクローズアップといった技法を駆使して、動的な画面を作ることにあったが、小津安二郎はそれと正反対に、長回しのロングショットを活用して、静的で情緒あふれる画面作りに徹した。近年の世界の映画には、そういった小津の技法に影響された作品が非常に多くなっているのである。このサイトでは、そんな小津安二郎の代表的な作品を鑑賞しながら、適宜批評を加えていきたい。



東京の合唱:小津安二郎
生れてはみたけれど:小津安二郎の世界
東京の女:小津安二郎
非常線の女:小津安二郎
出来ごころ:小津安二郎
浮草物語:小津安二郎
東京の宿:小津安二郎
一人息子:小津安二郎の世界
淑女は何を忘れたか:小津安二郎
戸田家の兄妹:小津安二郎
父ありき:小津安二郎の世界
長屋紳士録:小津安二郎の世界
風の中の牝鶏:小津安二郎の世界
晩春:小津安二郎の世界
麦秋:小津安二郎の世界
お茶漬けの味:小津安二郎の世界
東京物語:小津安二郎の世界
東京の風景の移りかわり:東京物語から東京家族へ
早春:小津安二郎の世界
彼岸花:小津安二郎の世界
お早よう:小津安二郎のホーム・コメディ
浮草:小津安二郎の世界
秋日和:小津安二郎の世界
小早川家の秋:小津安二郎の世界
秋刀魚の味:小津安二郎の世界



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