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男はつらいよ寅次郎子守唄:寅さんシリーズ第十四作



「男はつらいよ寅次郎子守唄」は、寅さんシリーズ第十四作、1974年12月公開。旅先の九州唐津で、生まれたばかりの赤ン坊を押し付けられ、柴又に帰っておいちゃん一家に面倒を見させる一方、自分は十朱幸代演じる看護婦に淡い恋を感じるというような内容である。失恋はともかく、寅次郎が赤ん坊を背負って放浪する姿がいかにも感動的な作品である。

赤ん坊は、生みの母親に捨てられたのだった。その母親に逃げられた父親が、一人で赤ん坊を持て余した挙句に、寅さんの人のよさを見込んで、赤ん坊を押し付け姿を消してしまう。押し付けられて困り果てた寅さんは、どういうわけかこの赤ん坊に責任を感じ、柴又までおぶって帰るのだ。その姿がなんとも人間的だ。寅さんシリーズのなかでも最も印象的な場面ではないか。

赤ン坊を押し付けられたおいちゃん一家も、これもどういうわけか赤ン坊に責任を感じ、自分たちで育てることにする。普通は公的な機関に相談すると思うのだが、そうせずに、自分たちだけで問題を解決しようとするところに、この時代にまだ残っていた日本人の伝統的な生き方を感じさせる。この時代には、人は公助を期待する前に、まず自助・共助で何事も解決しようとつとめていたのである。

一方、寅さんの恋はいつものパターン通りである。美しい看護婦に一目惚れするのだが、自分からアクションをかけることができない。それどころか、その看護婦を愛している男に手助けして、彼らの仲を取り持つのである。そのへんは何事にも奥ゆかしい寅さんの美点があらわれたものとして、いつもながら人の涙を誘うところである。

この作品から、下条正巳がおいちゃん役をつとめ、以後最後まで続けた。森川、松村とはまた違った雰囲気を感じさせる。また、春川ますみが人のよい役柄で登場する。彼女は日本女性のある種の美点を典型的に体現した女優として、その姿を見ただけで、懐かしさを覚えさせる美徳を持っている。実に得難い女優である。


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