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男はつらいよ寅次郎ハイビスカスの花:寅さんシリーズ第二十五作



「男はつらいよ寅次郎ハイビスカスの花」は、寅さんシリーズ第二十五作、公開は1980年夏。浅丘ルリ子演じるリリーが三度目の登場。その分気合が入っていて、シリーズの中で最も人気の高い作品だ。

例によって、冒頭で寅次郎の夢が紹介される。その夢の中で寅次郎はねずみ小僧に扮し、役人たちに追われて屋根の上で啖呵を切るのだが、その際に役人たちがしきりに笛を吹いて急を知らせる。その笛の音は、寝ている寅次郎の耳に届いていた現実の音だった。つまり寅次郎は、寝ている間に聞いたこの笛の音がきっかけとなって、夢の中でネズミ小僧になり、役人たちから笛の音を浴びせかけられたわけだ。このシーンは、ベルグソンの夢についての説を想起させる。ベルグソンは、寝ている間に受けた刺激がきっかけで、無意識の記憶が刺激され、それが夢を誘うのだと主張したのだった。

沖縄で重病に陥ったリリーが寅次郎にSOSの手紙を速達で送る。心配した寅次郎は、恐怖の対象である飛行機に乗って、沖縄までリリーを助けにいく。そんな寅次郎にリリーは惚れなおし、一緒に暮らそうとにおわすのだが、鈍感な寅次郎はリリーの気持ちをかなえてやれない。彼女の気持ちはわかっているのではあるが、すなおに受け入れることができないのだ。

そんなわけで、今回は女から言い寄られたにかかわらず、寅次郎はそのチャンスを生かせないのだ。それは寅次郎がうぶだからか、あるいはバカだからか、その判断は観客におまかせしますというような、多少遊びにすぎた映画である。

その後リリーは虎屋をたずね、さくらたちや寅次郎と再会する。そして柴又の駅でさくらと分かれる折に、「いやあね、分かれって」といって、嘆息する。小津の例の「いやあね、生きるって」をもじっていることはいうまでもない。


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