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男はつらいよ寅次郎あじさいの恋:寅さんシリーズ第二十九作



「男はつらいよ寅次郎あじさいの恋」は、寅さんシリーズ第二十九作、公開は1982年夏。寅さんのマドンナへの恋心は、年をとるにつれて深まっていくのだが、この作品に至っては、恋煩いが本物の病気を招くほど、寅次郎の恋は劇的な深まりを見せる。その恋の相手を石田あゆみが演じる。また、その恋に、京都の陶芸家の老人が絡んでくる。片岡仁左衛門演じるその老人もひそかに石田を愛していたようなのだ。

寅次郎が、京都の葵祭に便乗して商売をしている折に、偶然一人の老人と出会い、仲良くなる。その老人というのは、高名な陶芸家で人間国宝になっているほどの人。そんなことは露も知らない寅次郎は、老人に散々歓待されたうえに、老人の工房で一人の女中と出会う。それが石田あゆみだ。

色々あったのちに、石田が許嫁の男に捨てられる。老人の弟子だったという男だ。傷心した石田は故郷の丹後に戻り、そこを訪ねた寅次郎との間に、ひと時の安らぎを得る。その安らぎを通じて、寅次郎にも、また石田にも、互いを恋する気持ちが生まれるのである。

柴又に帰った寅次郎は、恋の病に伏す。そんな寅次郎を、石田が追いかけてくる。かくして二人は、石田の発案で鎌倉のアジサイ寺でデートする。寅次郎は、一人では照れくさいので、老いの満男をつれていく。寅次郎は、予感していたことが起ってどぎまぎする。きっと石田から求愛されるだろうと思っていたのが、その通りになったのだ。だが寅次郎は、例によって自分の気持ちをごまかす。二度目の傷心を味わった石田は一人故郷へと帰っていく、といったような内容である。

見どころは、なんといっても女に惚れられてどぎまぎする寅次郎の表情だろう。女が寅次郎に惚れたのは、寅次郎の人柄に惹かれたということもあるが、やはり、女盛りの身で一人でいるさびしさに耐えられなかったというふうに感じさせる。それほど石田の表情には、男を求める女の切なさが表れている。

一方、片岡仁左衛門は、なかなかの風格を感じさせる。監督の山田は片岡に入れ込んでいて、自分の映画に出てもらえたことを非常に喜んだということだ。なお、タイトルのアジサイの恋は、鎌倉のアジサイ寺でのデートをいうのだろう。


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