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男はつらいよ柴又より愛をこめて:寅さんシリーズの第三十六作



「男はつらいよ柴又より愛をこめて」は、寅さんシリーズの第三十六作、公開は1985年暮。伊豆の式根島で出会った美しい女教師(栗原小巻)と寅次郎との友情をテーマにした作品。その友情が、寅次郎にあっては愛に発展していくのだが、栗原にあっては、別の愛へのステップになるというような内容だ。

タコ社長の娘あけみが、夫婦喧嘩をして家出し、一か月も戻らない。そこで寅さんが探しに行く。下田温泉にいるとの情報があったからだ。寅次郎は、やくざのネットワークを利用して、あけみの居場所をつきとめる。だがあけみは帰りたくないという。たまたま下田温泉から見えた島に行ってみたいと言い出す。そこで寅次郎は、あけみとともに島に渡るのだ。その島は式根島。下田温泉からだと、この島が南の海の先に見えるのだ。

島へ直接行く交通機関はない。新島まで大型客船で行って、そこで船を乗り変えて行く。小笠原の母島に行くのとだいたい同じシステムだ。寅次郎は船の中で若者の集団と仲良くなる。かれらは式根島の出身者で、これから島で恩師を囲んで同窓会を催すのだという。寅次郎はかれらが気に入って、行動を共にする。放置されたあけみはふくれる。しかしそんな彼女を旅館の息子がやさしく慰めてくれ、また、島の名所を案内してくれもする。

寅次郎は、若者たちを教えた女教師に対して、最初は大した感情を抱いていなかった。自分を教え子の一人と勘違いした栗原の言葉に照れるばかり。そのうち、だんだんと彼女への感情が高まってくる。いつもと同じパターンだ。一方あけみのほうは、旅館の息子から結婚を申し込まれたりして、このままではまずいと思い、東京へ帰る決意をする。寅次郎はまだ居残っていたかったが、そもそもあけみを自分の手で連れ戻すことが使命だったことを思いだし、彼女とともに東京へ戻る。

東京に戻った寅次郎は、恋わずらいの床に臥せる始末。そんなかれを栗原が訪ねてくる。彼女には長らく付き合っていた子連れの男がいて、その男から結婚を申し込まれる。しかしうれしくはない。惰性で結婚してしまうのでは、ときめくような人生ではないと思うのだ。そこで、結婚の是非を決める前に寅さんの意見を聞きたいという。もしかしたら、寅次郎となら心ときめくような人生を過ごすことができると考えたのかもしれない。

だが寅次郎は、でしゃばったりしなかった。相手の男はいい人だと思いますよと言って、彼女の気持ちを後押しするのだ。そんなわけでこの作品も、老境を前にした寅次郎の枯れた恋を描くこととなった。


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