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男はつらいよ寅次郎物語:寅さんシリーズ第三十九作



「男はつらいよ寅次郎物語」は、寅さんシリーズ第三十九作、公開は1987年暮。父親に死に別れた男の子の母親を探す旅を描く。それに不幸な女との束の間の触れ合いを絡めてある。ロード・ムーヴィーの色彩が強い作品である。

テキヤ仲間が死んで、その一人息子が柴又まで寅二郎を訪ねてくる。人のよい虎屋の人たちが男の子の面倒をみているところに、寅次郎が旅先から帰ってくる。事情を聴いた寅次郎は、その子を連れて母親探しの旅に出る。テキヤ仲間の情報で、なんとか母親の足取りをつかめそうなのだ。

まず、紀州の和歌の浦にやってくる。そこの旅館に努めていたはずだというが、すでにやめていていない。吉野の旅館に移ったというので、そこへ出向くと、そこにもいない。がっかりしつつその旅館にとまるうちに、男の子が高熱を出して苦しみだす。たまたま隣の部屋に泊まっていた若い女(秋吉久美子)が、一緒になって子供の面倒をみる。近所の医者の往診が実現して、子供は危機を脱する。その際に寅次郎と女は、医師から夫婦と間違えられる。それをいいことに二人は互いに、とうさん、かあさんと呼び合うのだ。女は不幸な境遇で、寅さんに恋心のようなものさえ感じるようなのだが、無論それが本当の恋に発展することはない。

寅次郎たちはついで、伊勢地方の島へ向かう。子供の母親が吉野から伊勢へ移ったことを、旅館の亭主が確認したのだ。そこで子供は母親とついに出合うことができる。それを見届けた寅次郎は、一人船で去る。それを子供が追う、というような内容だ。

というわけで、寅次郎の失恋よりは、子供を連れた人探しの方に焦点をあてた作品。だから、マドンナが出てきても、彼女との関係がしっくりと描かれる余裕がない。寅次郎も自分の恋を自覚する余裕を持たないのである。

大学受験を控えるようになった満男が、自分の進路に迷って、人間が何のために生まれてきたのかと寅次郎に聞く場面がある。寅次郎はその質問に答えて、生まれてきてよかった、と思えるようになるために生まれてきたんだ、と答える。いかにも寅次郎らしい答えだが、意外と真実らしいと思わせられる。


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