壺齋散人の 映画探検
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男はつらいよ寅次郎紅の花:寅さんシリーズ第四十八作



1995年の暮に公開された「男はつらいよ寅次郎紅の花」は、寅さんシリーズ本編最後の作品(第四十八作)であり、寅さんを演じた渥美清にとって遺作になったものだ。この当時渥美は末期がんが深刻化しており、もう映画は無理だと医師から言われていたが、痛みに耐えながら出演した。自由に動けない状態だったので、この映画の中の寅次郎は、座っているか、立っていたも棒立ちしているだけである。それでもその表情に痛々しいところはない。寅さん特有の楽天性が失われていないのだ。

満男と泉ちゃんとの恋がメーンになり、それに寅さんと浅丘ルリ子演じるリリーとの老いらくの恋が絡む。浅丘がわざわざ出てきたのは、これがシリーズ最後になることを予期した山田洋次の粋な計らいによるものだろう。

主な舞台は奄美大島だ。そこに泉ちゃんの結婚問題で傷心した満男がやってくる。泉ちゃんは、満男に自分と結婚してほしいと願っており、それをたしかめるためにわざわざ東京まで会いに来たのだったが、その泉ちゃんの思いに満男は答えられない。まだ子どもなのだ。それでも泉ちゃんを奪われたくない気持ちから、美作の津山まで出かけて行って、泉ちゃんの結婚式を妨害する。その後傷心を抱えながら奄美大島まで流れてくるのだ。

その奄美大島には、後家になったリリーと、その居候として寅次郎が住んでいた。満男はこの二人から励まされる。その励ましを描くところが、この映画の中の主な見どころだ。寅次郎とリリーは、一つ屋根の下で数か月暮らしたこともあり、本物の夫婦のように打ち解けた関係だ。リリーは、前作では沖縄まで流れてきていたのだったが、その後奄美大島で結婚生活を送り、亭主が死んで後家になった後は、一人暮らしをしていたのである。そこへ寅次郎が身を寄せてきて、二人は仲良く一つ屋根の下に寝起きするようになったというのである。

結局泉ちゃんの結婚話は消失する。そのうえで泉ちゃんは奄美にまでやってきて、満男にあらためて自分への思いを確かめる。それに対して満男は、「愛している」と告白するのだ。

そういうわけでこの映画では、満男も寅次郎も、一応恋を成就させたということになっている。もっとも寅次郎は、例の引っ込み思案を発揮して、リリーと一緒に暮らし続けることはしなかったのだが。そのかわり寅次郎は、神戸の被災現場に赴いて、被災者たちを励ますのである。この映画が公開された1995年には、神戸が大地震に見舞われ、未曽有の災害を被ったのだった。


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