壺齋散人の 映画探検
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男はつらいよお帰り寅さん:寅さんシリーズ第五十作



「男はつらいよお帰り寅さん」は、映画版寅さんシリーズの開始五十周年を記念して作られた。シリーズ五十本目の作品である。公開は2019年暮。作家となった満男を中心にして、その満男の視点から寅次郎の生涯を回想するというような構成になっている。その満男が、かつての恋人泉ちゃんとほぼ二十年ぶりに出会い、お互い生きてきた人生を振り返る。だが、もはや昔に戻ることはできない。それぞれ自分の残された人生を歩むといった内容である。

おいちゃん、おばちゃんはとうに死んで、昔のトラヤには博とさくらの夫婦が住んでいる。一方満男は一人娘とともにアパートに暮らしている。妻は六年前に死んだことになっており、その七回忌が虎屋で営まれる。満男はいまや、会社つとめをやめて作家となっており、売り出し中である。

そんな満男と泉ちゃんが再会したのは、八重洲ブックセンターでサイン会を催していた満男の前に泉ちゃんが突然現れたからだった。彼女は、家庭の都合で日本を去り、ヨーロッパで生活しながら、そこで家族ももっている。国連の難民関係の部署で働き、その仕事の都合で日本に来た際に、偶然満男のサイン会に出くわしたというわけである。

満男は早速泉ちゃんを誘って、神田のカフェにいく。そのカフェには、あのリリーがママとして働いていて、満男や泉ちゃんと寅さんの思い出話をする。その後も寅さんは、満男の回想のなかでたびたび現れるのだ。

満男は、引きつづき泉ちゃんと行動を共にする。神奈川の施設に泉ちゃんの父親を見舞ったり、泉ちゃんの母親をなぐさめたり。その合間に満男は寅さんを思い出し、なつかしい気持ちになるのである。

こんな具合で、寅さんが死んで二十年後に、満男を中心にして昔馴染みが集まる一方、満男が寅さんを回想するというかたちで、シリーズからさまざまな場面がよみがえってくるように作られている。ひとつ物足りないのは、寅さんは昔の画面のなかでしか出てこず、したがって現在の満男やさくらたちと直接触れ合うことがないということだ。死んでしまっているので当然のことだが、もしも昔のままの寅さんが、現在の老いたさくらの前に現れたら、さぞ面白かったことだろう。


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