壺齋散人の 映画探検
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ヤン・シュヴァンクマイエル「オテサーネク妄想の子供」
チェコの食人樹伝説



ヤン・シュヴァンクマイエルの2000年の映画「オテサーネク妄想の子供」は、チェコの食人樹伝説を映画化したということになっている。そういう伝説が実際にあるのかどうか、小生にはわからないが、一応映画の中では、その伝説が絵本になっており、その絵本を読んだ少女が、どうやら妄想と現実とを取りちがえたという風にも解釈できるのだが、映画の中の食人樹は圧倒的な存在感を発揮しており、少女の妄想とは無関係に、実在性を主張している。だから我々観客は、実際に起きた出来事としてこの映画を見ることになるであろう。

不妊症で子供をさずからない女性がノイローゼ状態に陥る。そこで妻を少しでも慰めたいと、夫が別荘の庭の木の切り株から人間の子どもに似せた人形を作って与える。妻はその人形が非常に気に入り、まるで生きた子供を相手にするように可愛がる。その可愛さが高じて、現実と幻想の区別がつかなくなるのだ。

そこまではよくある話だが、そこから先がショッキングだ。その人形は実は食人樹で、人間を殺して食うという悪趣味をもっているのだ。じっさいに、家にやってきた郵便配達人とか、役所の職員がこの食人樹に食われてしまう。驚いた夫はなんとか繕おうとするが、妻のほうは、わが子可愛さに眼がくらみ、一人や二人の人間が食われてもいいではないかと主張する。妻の狂気に絶望した夫は、食人樹を縛り上げ、アパートの地下室に閉じ込めてしまう。

そのことを知った隣家の少女が、この食人樹に異常な関心をしめす。彼女は、食人樹をモチーフにした絵本を愛読していて、その絵本の中の食人樹が自分の目の前に現れたと思いこむのだ。そこから先は、少女が食人樹の友達として、その食人の欲望をかなえさせてやることになる。さまざまな人々が食人樹の餌となる。餌の選別は少女の専権事項だ。少女が餌として選んだ人間を、食人樹が次々と平らげていく。

アパートの住人が次々と失踪することに疑問を持った管理人の老婆が、ついに食人樹の存在に気付く。絵本の中では、一人の老婆が、キャベツ畑を食人樹に食い荒らされたことに立腹し、その食人樹を鍬で叩き殺すことになっているのだが、それと全く同じように、この管理人の老婆は、自分の畑がなにものかに荒らされたことに腹を立て、鍬をもって地下室に突進するのである。

というわけで、現実と幻想とがないまぜになった実に不思議な映画である。これ以前のシュヴァンクマイエルの作品とは異なり、食人樹が人形であるほかは、すべて実写である。その分強いリアリティを感じさせる。




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