壺齋散人の 映画探検
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ハンガリー映画「ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲」:動物虐待への逆襲



2014年のハンガリー映画「ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲」は、人間に虐待された犬が、虐待した人間に復讐するという内容の作品。人間がほかの人間に復讐するという話は珍しくはないが、動物が人間に復讐する話は非常にめずらしい。虐待されて反射的に攻撃するということはあるかもしれないが、計画的に復讐するというのは、知能を前提としているので、動物に知能など認めたがらない人間にとっては、この映画は受け入れられないほどスキャンダラスに思えるだろう。

映画の設定自体が空想じみている。架空の国を舞台にしているのだが、その国では、雑種の犬を飼うことは公序良俗違反とされていて、もし飼いたい場合には罰金を払わねばならない。そんな国で、一人の少女が雑種の犬を連れて、父親の家にやってくる。両親は離婚していて、母親が恋人と一緒に暮したいので、娘を別れた夫に押し付けたのだ。娘が連れてきた犬はハーゲンといって、知能が高い。父親はそのハーゲンを嫌って、道路わきに捨ててしまう。棄てられたハーゲンには過酷な運命がまっていて、悪い人間たちによってさんざん虐待される。その挙句に、保健所の犬殺しにつかまって殺処分されようとする。利口なハーゲンは、収容されていた二百頭以上の犬たちを組織して人間への復讐を始める。まず、保健所の悪い職員たちを血祭りにあげたあと、仲間の犬たちと町に繰り出して、自分を虐待した人間たちを次々に襲う。その挙句に、少女の父親にも迫るが、少女の心に接することで、昔のことを懐かしい気持ちで思いだし、こころがなごむといった内容である。

見どころは、二百頭以上の犬たちが、ハーゲンの指示にしたがって整然と行動するところだ。映画の中のアナウンスにも、これらの犬たちが指導者の命令のもとに軍隊のように整然と行動しているといった驚きの声がはさまれる。動物が指導者の命令にしたがって整然と行動するというのは、おそらくオーウェルの「動物農場」からヒントをえたのだろう。

保健所の犬殺しどもが野良犬を狩り立てる様子は、かつての東京の光景を思い出させるものであった。かつての東京でも、保健所が定期的に街をまわって、野良犬どもを捕獲していたものだ。捕獲された犬は、動物愛護センターと称する施設に集められ、殺処分されるのであったが、そうした殺戮施設に「愛護センター」という名称を付したのは、皮肉なことではあった。

この映画が何を言いたいのか、よくわからないところがある。動物を虐待してはいけませんと訴えたいのか。なお、少女が音楽隊に入っているという設定もあって、随所で音楽が効果的に演奏される。派手なラプソディとかワグナーのタンホイザーといった曲だ。




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