壺齋散人の 映画探検
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フランク・キャプラ「毒薬と老嬢」:殺人事件に巻き込まれる新婚カップル



フランク・キャプラは一貫して、軽快で楽天的でコメディ・タッチの映画を得意とした。1944年の作品「毒薬と老嬢(Arsenic and Old Lace)」は、そうしたコメディの精神がもっとも色濃く出たものだ。肩をこらさずに楽しむことができる。もともとブロード・ウェーの舞台で好評を博したコメディだったものを、ハリウッドの映画会社が注目して、映画化したものだ。舞台は異例のロングランとなって、それが終わるまで映画の公開ができなかった。公開されたのは第二次世界大戦の最中だったが、この映画には戦争の影はまったく感じられない。

結婚したばかりの作家モーティマーが、新妻をともなって、ブルックリンに住んでいる二人の叔母を訪ねる。そこでかれは、見知らぬ老人の死体が、窓際のソファの下に横たわっているのを発見する。驚いて事情を聞くと、叔母たちは自分たちが殺したことを認める。その老人の境遇に同情して、死ぬのを手伝ってやったというのだ。しかも叔母たちは、ほかにも十一人の人々を殺しており、これが十二人目の死者だというのだ。その死者たちを記念するかのように、かれらのかぶっていた帽子が戸棚の中に陳列されているのだった。また、叔母たちはかれらを、ヒ素と青酸カリをまぜたワインを飲まして殺したのだった。

事態の異様さに驚愕したモーティマーは、どういうわけか、死体の処理を後回しにして、頭のいかれた弟の「大統領」を、精神科の療養所へいれる算段をする。叔母たちの狂気には、弟が責任があると思ったようなのだ。

そんな具合で取り込んでいるところに、二人組がやってくる。一人はモーティマーの兄ジョニー、もう一人はドクターと呼ばれている小柄な男である。かれらは一人分の死体を運んできた。屋敷の地下室に埋めるつもりなのだ。おかしなことに、かれらも殺人を趣味としていて、叔母たち同様、これまでに十二人の人間を殺してきたという。そんなかれらとモーティマーが、骨肉の争いをする。その争いの結果、兄は敗れて警察に連行され、モーティマーのほうは、タクシーに乗ってナイアガラに新婚旅行に出かける。この新婚カップルは、思わず殺人事件に巻き込まれて新婚気分ではなくなってしまったのだが、最後には自分たちの境遇を取り戻すというわけだ。

当時東海岸に住んでいるアメリカ人にとって、ナイアガラの滝はハネムーンのメッカだったことがよくわかる。だからこそ、マリリン・モンローもナイアガラの滝にあこがれる演技をしたわけだ。

なんということもない、ただのコメディ映画だが、つい引き込まれてしまうのは、キャプラ一流のユーモアの賜物だろう。そのユーモアがあるために、どぎつい笑いには陥らない。なお、邦題の「毒薬と老嬢」は、ヒ素の入ったワインで老人を死なせてやる老婦人たちの善意を強調したものだ。




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