壺齋散人の 映画探検
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ドキュメンタリー映画「すばらしき映画音楽たち」 映画音楽の歴史



2016年のアメリカ映画「すばらしき映画音楽たち(Score: A Film Music Documentary マット・シュレーダー監督)」は、映画音楽の歴史をテーマにしたドキュメンタリー作品である。過去に採録された映像と、同時代の映画人のインタビューを組み合わせて、映画音楽のたどってきた歴史を簡略に紹介しながら、映画にとって音楽の果たす巨大な役割に注意を促すような内容だ。映画とか映画音楽とかいっても、取り上げた対象はハリウッド映画だけである。ハリウッドだけが世界の映画を代表するわけではないので、この作品にはおのずから限界があるが、その限界の範囲内で、楽しめるものにはなっている。

映画にはたしかに音楽がつきものである。そのことは、サイレント映画にすでに音楽が役割を果たしていたことからわかる。サイレント時代には、スクリーンの前に楽器が用意され、演奏家がスクリーンの流れに乗りながら演奏したものだ。事前に楽譜が用意されることもあったし、その場の即興ということもあった。いずれにしろ、音楽はサイレント映画にも欠かせなかった。もし音楽がなければ、映画の魅力はひどく損なわれていただろう。いわんや、トーキー以降は、音楽の音源はフィルムの中に併存し、映画の不可欠の部分となった。

その映画音楽には、時代の流れにしたがって、流行のようなものがある。シンプルな音から始まり、大規模なオーケストラが好まれた時代、ジャズやロックなどの流行を取り入れた時代なのだ。時代による変遷のほかに、多様性も尊ばれたことが、この映画からは伝わってくる。

映画音楽の特徴は、音が映像と結びついていることだ。だから映画を見た後では、映像だけ、あるいは音楽だけ思いだすということにはならない。映像と深く結びつい形で音楽がよみがえるように出来ている。人間の認知機能がそのように出来ているらしい。

映画音楽のモチーフは、意外と単純で、わかりやすい。大部分の映画音楽作家は、いくつかの単純なメロディを有効に使い、映画の流れの中でそれを繰返し提示する。だから観客は、そのメロディを徹底的に頭の中に仕込まれる。それが潜在意識を刺激して、映画への精神的な密着性を高めるということのようだ。

この映画の中で取り上げられた作品は、どれも映画音楽が大きな役割を持たされている。だいたいハリウッド映画というのは、芸術性よりエンタメ性を重視するので、映画音楽が果たす役割もそれだけ大きいのだ。それを日本の映画と比較するとよくわかる。日本映画でテーマ音楽が話題になったものは、音楽そのものを楽しむように出来ている場合がほとんどで、映画が映像と一体化しているといったハリウッド風の作品はそう多くはない。たとえば、井上陽水のテーマ曲が印象的だった「少年時代」は、ラストシーではじめてこのテーマ音楽が流れるといった具合だ。それに対してハリウッド映画は、オープニングから音楽が重要な役割を果たし、映画全体の流れに乗って止むことなく演奏され、壮大なエンディングで終わるといった体裁のものが多い。この映画はそうしたハリウッド映画の特徴をわかりやすく解説している。




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