壺齋散人の 映画探検
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ポルトガル映画「熱波」:ポルトガル人女性の奔放な生き方



2012年のポルトガル映画「熱波(Tabu)」は、一人のポルトガル人女性の奔放な生き方を描いた作品。隣国のスペインの女性たちの性的奔放さはよく知られているが、ポルトガルの女性もそれにおとらず性的に奔放であると感じさせられる映画である。その奔放さに、人種的な優越感がからんでいる。その女性は、アフリカを舞台に、白人としての特権を享受しながら、性的な快楽にも耽るのである。しかも、夫の子を妊娠して、膨れた腹を抱えながら、ほかの若い男とセックスを楽しむのである。

映画は十六ミリの白黒画面で、前後二部構成になっている。前半では、八十歳になった老女の生き方が、隣人の視線を通じて描かれる。後半は、その老女の若い時代の生き方が描かれる。その生き方というのが、上述したような、奔放なセックスライフだったというわけである。

前半で狂言回しをつとめるピラールという女性が、一風変わった女性である。彼女には大した収入源がないので、アパートの自室を民宿として活用している。民宿をポルトガルでは、ホームステイと呼んでいるようだ。ところが、民宿の予約が突然キャンセルされる。彼女は料理を作って待っていたので、非常にがっかりする。活用されることにならなかった料理は、隣人にふるまう。その隣人というのが、黒人女をメードに使っている八十歳の老婦人なのである。その老婦人も、型破りの生き方をしているので、型破りな者どうしでの珍妙なやりとりが展開される。

老婦人の死期が近づいたことで、映画は大きく展開する。老婦人が昔の恋人と会いたいと言い出すのだ。ピラールの努力で、その昔の恋人というのが見つかる。だが、老婦人の死水をとることはできなかった。せめて彼女の葬儀に参列するのだが、その際の思い出話で、昔の恋人(ジャン・ルカという)と若い頃の老婦人(アウロラという)との間の、激しい恋が語られる。その恋というのが、夫の子を妊娠した身で、ほかの男とのセックスを堪能するというものだった。ポルトガル人女性には、婚外性交はあたりまえのことなのかもしれないが、しかしいくら何でも、夫の子をはらんだ大きな腹を抱えて、ほかの男とセックスに耽るというのは、あまりにも不道徳というべきではないか。もっともそれは厳格な日本人にとってそう思われるだけで、開放的なポルトガル人にとっては、至極当たり前なことなのかもしれない。

アフリカが舞台とあって、黒人たちが多く登場する。かれらの描き方は、野蛮な生きものに文明化されたポルトガル人が君臨するというものである。ポルトガルはかつて、南アフリカのアンゴラやモザンビーク、西アフリカのギニアに植民地をもっていた。この映画のなかのアフリカ植民地がどこなのか、明示されてはいないが、高い山が出てくるところから、おそらく南アフリカのどこかなのだろう。映画の中に独立勢力のことが出てきて、その独立勢力によって、アウロラが殺した男が殺害されたということになっている。アウロラは殺人を犯してまで、自分の愛に忠実だったと描かれているのである。




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