壺齋散人の 映画探検 |
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石井裕也の2019年の映画「町田くんの世界」は、石井の作品の中ではかなりユニークなものである。この映画の中の主人公の少年も、やはり生き方が下手なのではあるが、ほかの映画の中の人物たちとは違って、生き方が下手なためにひどい目にあっているわけではない。逆に周囲の誰からも愛されるのである。もっともかれは誰彼なく愛してしまうので、自分だけを愛してほしいと願う者にはストレスを与える。かれは特定の人だけを独占的に愛することができないのだ。 この主人公は、幼いころに井戸に落ちた際、頭を打ってやや知恵遅れ気味になったと自覚している。だが、かれにとって知恵が遅れていることはハンデにはならない。逆に他人の前ですっとぼけてみせて、その場の雰囲気を和ませてしまうのだ。宮沢賢治が現代社会に生き返ったら、こんな人間として見られるのではないか。 主人公は五人兄弟で、六人目が生まれようとしている。松島奈々演じる母親は、子供好きで何人でも生むつもりなのである。当然子供の種を授けてくれる夫がいるのだが、その夫は仕事で年中留守にしていて、いつ子種を授けることができるのか、不審に思われるほどである。だが、ほんのたまに家に戻った時に、抜け目なく子種を授けるのであろう。 主人公の少年には好きな女の子ができる。しかしかれは博愛主義者だから、その子ばかりに愛を注ぐわけにはいかない。その子が好きなほかの男の子のために、仲介役を買って出たりもする。そんな主人公を、女の子はどう受け取ったらよいかわからなくなり、二人の関係は終わりを告げそうになる。そこで主人公が必死に女の子の後を追ううちに、二人は一緒に気球に乗って大空を遊泳する、というようなファンタスティックな雰囲気も感じさせる映画である。 |
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