壺齋散人の 映画探検
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鶴橋康夫:映画の鑑賞と批評


鶴橋康夫はテレビ界の出身で、20世紀中はもっぱらテレビドラマの制作をしていた。映画界に進出したのは21世紀になってからで、第一作目の「愛の流刑地」を作った時には、すでに七十近くになっていた。その年にして、男女の痴話ばなしを映画にしたわけだが、その映画作りにはテレビドラマに通じるような通俗性があった。その通俗性は、それ以後の作品を通じてかわらない。何といっても、映画はエンタメの一種なのであり、観客を喜ばせなくてはならない。それはテレビドラマと変わるところがない。そういう信念のようなものを、鶴橋康夫はもっている。そのぶれない信念が、鶴橋康夫をユニークな映画作家にしているのだと思う。

二作目の「源氏物語千年の謎」は、紫式部の永遠の傑作「源氏物語」を原作にしたものだが、原作に忠実な作品ではなく、現代的に思い切った脚色を加えている。それでも原作の雰囲気である男女愛のエロティシズムは、十分といえるほど取り組んでいる。その点では、一作目で見せた男女の痴話ばなしの世界を、古典とからめながら演出しているわけだ。愛の作家としての鶴橋康夫の特色がよく現われている作品といえよう。

三作目の「後妻業の女」は、最近世間を賑わせた毒婦をテーマにしたもので、前の二作とは多少毛色が変わってはいるが、これも広い意味では男女の痴話ばなしである。その痴話ばなしに大竹しのぶ演じる毒婦がからんでくると、また違った世界が現れて来るから面白い。

四作目の「のみとり侍」は、徳川時代の男娼をテーマにしたものだ。男娼はいまでこそ新宿二丁目を中心に独特の性分化を花咲かせているが、昭和の中頃までは、日陰者の世界だった。その男娼の世界が徳川時代にもあったということを、この映画は教えてくれる。その意味では、鶴橋康夫としてはめずらしい啓蒙的な作品だ。

鶴橋康夫の作った映画は以上の四作に限られている。もうすでに八十にならんとする高齢であることを考えると、五作目を期待するのは無理かもしれない。こんなことから、もう少し早めに映画作りに乗り出してほしかたった。もっとも今頃そんなことを言っても始まらないが。ここではそんな鶴橋康夫の映画を鑑賞しながら、適宜批評を加えたい。



愛の流刑地:鶴橋康夫
源氏物語 千年の謎:鶴橋康夫
後妻業の女:鶴橋康夫
蚤とり侍:鶴橋康夫


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