壺齋散人の 映画探検
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ルーマニア映画:主要作品の解説と批評


ルーマニアは、東欧圏諸国のなかでも映画文化の遅れた国といってよかった。20世紀中は、国際的な注目を浴びた映画は現れなかったといってよい。ルーマニア映画に国際的な注目があつまったのは、クリスティアン・ムンジウの功績だ。ムンジウは2007年に作った「四か月、三週と二日」がカンヌでパルム・ドールをとり一躍世界の注目を浴びた。この映画は、女子大生の堕胎をテーマにした作品で、強い社会的な問題意識を感じさせた。ついで、ルーマニアの女子修道院の生活をテーマにした「汚れなき祈り」(2012年)、ルーマニアの家族関係を描いた「エリザのために」(2016年)と、いづれも社会的な視線を感じさせる映画を作って、ルーマニア映画の魅力を世界に発信した。

一方、息子を溺愛する母親と、母親に依存する息子との母子関係をモチーフにした「私の、息子」(カリン・ピーター・ネッツァー監督2013年)のような作品もあり、ルーマニア映画には家族関係や社会的な矛盾を描いたものに優れた作品があるというイメージを拡散した。

そうしたイメージは、ドキュメンタリー映画にも現れている。「コレクティブ 国家の嘘」(2019年)は、ルーマニアの医療システムの腐敗を追った作品であり、「アカーサ僕たちの家」(2020年)は首都ブカレストの公園で暮しているロマ人への迫害を追っている。ロマ人は、ルーマニアにもっとも多く住んでおり、ルーマニア人によって迫害されてきた歴史がある。そういう負の歴史は、なかなか映画には取り上げられないという傾向がつよいが、ルーマニアの映画文化は、そういう部面にも大胆に挑戦するということか。

医療腐敗に代表される社会システムの不具合は、かつて社会主義国家であったルーマニアが拙速な資本主義化を図った副産物だと思われる。ロシアと同じく、無節制な資本主義化は、一部に権力の私物化現象を生み出し、それが深刻な腐敗をもたらしたということだろう。もっとも、ルーマニア人は、社会主義から資本主義への移行を、基本的には望ましいものと考えているようで、旧体制への復活を望むものはいないと言われる。資本主義への以降にともなう矛盾をなるべく軽減しながら、そのいいところを享受しようとする姿勢が、ルーマニア人の最大公約数的な考えではないか。

ここではそんなルーマニア映画の主要な作品を取り上げ、鑑賞しながら適宜解説・批評を加えたいと思う。


ルーマニア映画「4ヶ月、3週と2日」:女子大生の堕胎

ルーマニア映画「汚れなき祈り」:ギリシャ正教の修道院生活

ルーマニア映画「エリザのために」:娘のために必死になる父親

ルーマニア映画「私の、息子」:母子の相互依存関係

ルーマニア映画「コレクティブ 国家の嘘」:医療システムの腐敗を追求するドキュメンタリー

ルーマニア映画「アカーサ僕たちの家」:ブカレストのロマ人一家を描くドキュメンタリー




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