壺齋散人の 映画探検
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ルーマニア映画「コレクティブ 国家の嘘」:医療システムの腐敗を追求するドキュメンタリー



2019年のルーマニア映画「コレクティブ 国家の嘘」は、ルーマニアの医療システムの腐敗を追求するドキュメンタリー映画である。ユーマニアの医療について、小生はほとんど知るところがないが、このドキュメンタリー映画を見る限りかなりひどいという印象を受ける。医療システムが、少数の特権的な連中によって食いものにされ、国民の安全を犠牲にして一部の人間のふところを潤すという構造になっているらしい。

なぜ、そんなことがまかりとおるのか、映画はその原因について詮索はしない。ただひたすら、ひどいシステムだと強調するばかりである。映画の中には改革派の保険大臣も出てくるが、その大臣さえもが、ルーマニアの医療システムは腐敗していると公言するほどである。現職の保健大臣が、自国の医療システムのひどさを認めるのであるから、これはかなり深刻な事態と言える。そんな国に住んでいるルーマニア国民は、政府はおろか自国の社会システム自体を信頼できないだろう。じっさい自国に愛想をつかした人間には、国外で生きるという選択肢もある。

ルーマニアのこうした現状を、日本人は笑ってばかりもいられない。日本の医療システムがかなり傷んでいることは、先のコロナ騒ぎのなかで明らかになったところだ。それは予測不能なことではなく、なるべくしてなった事態といってよかった。なにしろ日本政府は、医療システムの効率化と称して、合理化を進めてきた結果、医療資源の大幅な縮減という事態を自ら招いてきた。医療資源の合理化にもっとも熱心だった大阪などは、保健所の廃止や医療機関の統廃合などをすすめ、その結果コロナの脅威に対して非常に脆弱であった。しかもそうした政策を進めてきた連中が、自分のしてきたことになんらの責任も感じなかったようなので、日本はルーマニア以上にひどい状態にあるといってよいほどだ。

映画は、2015年に起きたミュージック・ホールの火災を映し出すことから始まる(「コレクティブ」はそのホールの名前)。この火災が、ルーマニアの医療システムの腐敗を白日にさらけだすきっかけとなったのだ。火災では27人が焼死し、そのほかに入院中に死んだものが37人あった。その原因は感染症である。やけど患者を受け入れた病院には、適切な消毒機能がそなわっておらず、やけどした患者を感染症にさらした。その背景には、薬品をもうけの手段とする連中があった。その連中が自分らの懐を肥やすために、いいかげんな薬を流通させ、それが医療機関の治療能力を大きく損なった。そのほかにも、ルーマニアには、公的なシステムを私腹を肥やす手段に使う連中が跋扈していて、そういう連中が政府の権力を動かしている。そのあたりは日本も大した違いはないと思うが、ルーマニアの場合には、白昼堂々と無法行為がまかりとおる。そこがまた、あっけらかんとして、日本のようにじめじめしてはいない。

この映画は、ドクメンタリーの名にふさわしく、現存する人間が素顔のまま出てくる。よくそこまで現実にせまることができたものだと、脱帽するところである。




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