壺齋散人の 映画探検
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フレッド・ジンネマン「地上より永遠に」:米軍兵士の日常



フレッド・ジンネマンの1953年の映画「地上より永遠に(From Here to Eternity)」は、米軍の兵士たちの日常を描いている。それに日本軍によるハワイ奇襲を絡めている。もっともハワイ奇襲はつけたしのような扱いで、主眼はもっぱら米軍の兵営生活にある。軍隊の兵営生活を描いたものとしては、日本では「真空地帯」をはじめ数限りない作品をあげることができるが、アメリカ映画には少ないのではないか。というより珍しいといってよいようだ。その理由はいくつか考えられる。日本では、敗戦したこともあって軍隊に対する忌避感が一定程度存在し、それが軍隊生活をネガティブに描く動機になったが、アメリカでは、軍に対するそういうネガティブな感情が大きくないので、勢い軍隊は理想化されて描かれ、その一部である兵営生活も、理想化されることはないにしても、たいして人の興味をひくものではなかった。

とにかくこの映画に描かれた米軍の兵営生活は、いじめがはびこっていたり、上官の妻を浮気の相手としたり、また町にくりだして喧嘩騒ぎを起こしたり、かなり乱れたものである。日本の映画には、いじめや喧嘩はあっても、上官の妻と浮気をするシーンなどはありえないといってよい。そこは国民性の違いなのだろう。アメリカの軍隊は、妻と一緒に暮らすことを許された軍人もいるらしく、そうした軍人が、自分自身浮気にはげむ一方、妻にも浮気されるのである。

という具合に、かなり人をくった設定である。映画の主人公はバート・ランカスター演じる曹長と、ボクシングの強い二等兵(モンゴメリー・クリフト」で、その二人のうちランカスターのほうは上官の妻を誘惑し、クリフトのほうは、古参の同僚からひどいいじめをうけるのだ。米軍内部でどれほどいじめが深刻化していたのか、小生にはよくわからぬが、この映画を見るかぎり、米軍にも陰湿ないじめが蔓延していたのだろうと感じさせられる。米軍は国柄からしてさまざまな民族の出身者の集まりであり、したがって陰湿な人種差別があってもおかしくはない。日本のような、同一人種を建前とした国の軍隊でも、いじめは蔓延していたわけだから、アメリカのような人種の寄せ集めからなっている国の軍隊で、いじめが蔓延するのは不思議ではない。

映画の最後に近い部分で、日本軍による真珠湾への奇襲のシーンがある。奇襲をうけた米軍は、あたふたするばかりで、有効な反撃ができない。いくらマッチョな米軍でも、奇襲を受けてはなすすべがない、というわけであろう。その奇襲はしかし、一つの挿話くらいの扱いで、映画にとって重要な意味は持たされていない。ただ、事件を起こして逃亡していたクリフトが、奇襲を知ってにわかに軍人気質を発揮し、原隊にもどろうとして、友軍に誤って射殺されるのである。

米軍を理想化するわけでもなく、かといって大っぴらに批判するわけでもない。事実を淡々と描いているといった作風だ。




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