壺齋散人の 映画探検
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婁燁(ロウ・イエ)の映画「二重生活」:中国式重婚



婁燁(ロウ・イエ)は、2006年に作った映画「天安門」が当局の怒りをかい、5年間中国国内での映画製作を禁止されたのだったが、その禁止期間が終わるとすぐに、中国での活動を再開した。2011年の映画「二重生活(浮城謎事)」は、復帰第一作である。

「天安門」は、現代中国の若者たちの糜爛した性風俗を描いていたが、この「二重生活」では、崩壊した家族関係を描いている。一人の男が二人の女と結婚関係を続け、それぞれ子どもを設けて家族を作る。つまり、男は二つの家族を同時に生きているわけで、邦題の「二重生活」は、そうした事情を雄弁に物語っている。その男がさらに、新たに愛人を作る。それに激しく嫉妬した二人の「妻」が、その愛人を殺すというような内容である。

一人の男が二人の妻を持つこと自体は珍しいことではない。無論重婚はどの国でも禁じられているが、妾をもつことは事実上野放しになっている。しかしその場合、法的な結婚と事実上の同棲状態は厳しく区別される。本妻は法的に権利を守られる一方、妾にはそうしたものは期待できない。

ところがこの映画の中の二組の結婚は、ほぼ平等のものとして描かれている。そこが日本人的な感覚ではわからない。本妻は本妻の権利をかざして妾を責めるわけではなく、妾も本妻に対して遠慮がない。愛情の強い方が男を引き寄せられるくらいの感覚でいる。しかし、第三の女が男を誘惑すると、それは許せない。したがって、この二人の妻は、第三の愛人に対しては共同して攻撃する姿勢をとるのだ。

とにかくわけのわからぬ映画である。こういう映画を見せられると、現代中国においては、結婚についての伝統的な価値観どころか、あらゆる秩序が融解して、男女は無差別に結びついているのではないかと思わせられる。それが実態を反映しているとしたら、驚くべきことで、中国ではもはや、礼節とか忠孝といった概念は存在しないと思わざるをえない。

中国の家族関係は、伝統的に父親を中心として、兄弟間の関係は平等主義的なものだと言われるが、その平等主義が、現代の中国では、変な方向に向かっているのではないか。人間は平等なのだから、複数の妻の間も平等であるべきだ、そんな考えが定着しつつあるのではないか。そんなことを考えさせられる映画である。




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