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香港映画「花様年華」:既婚男女の恋愛



2000年公開の香港映画「花様年華(王家衛監督)」は、既婚男女の恋愛をテーマにした作品。欧米特にイギリスでの評価が高く、BBCの「21世紀最高の映画100本」では第二位にランクされたほどだ。一つには、イギリス人は「逢引き」に描かれたような既婚男女の恋愛に非常な関心を持っていること、もう一つには、香港を中国に返還して間もないころのことで、イギリス人の香港への郷愁というべきものが、この映画へのかれらのこだわりを掻き立てたという事情があったのだろうと考えられる。

香港のあるアパートメントに引っ越してきた男女が、たがいにひかれあう過程を描いている。かれらはそれぞれの配偶者が不倫をしているのに気づく。なんと、主人公の女(チャン)の夫と、主人公の男(チャウ)の妻が不倫しているのだ。そこで、配偶者に裏切られた男女が、互いにひきつけられあう。配偶者が不倫しているなら、自分たちもしてやれといった具合だ。ところが、この男女は変な道徳観をもっていて、気軽に浮気するまでには到らない。かれらの愛は、プラトニックなのだ。そんな愛でも、人のうわさに上ると、後ろめたい感情が高まる。自分たちは、一線を越えたわけではないのだが、それでも許されないようなことをしているという負の感情にさいなまれるのだ。

結局かれらは、結ばれることはなく、行き違いのままに終わってしまうのだが、いまどきそんな関係が男女の間に成り立つとは、とりわけイギリス人には不可解に映ったに違いないのだ。日本人の小生が見ても、実に不自然に見える。

筋書きに大した変化があるわけではない。既婚の男女が人目を忍びながらデートを重ね、次第に感情の高まりを覚える過程を丁寧に描く。そのかれらのもつれあいが、情感たっぷりな音楽に伴われて展開していく。展開といっても、セックスをするわけでもなく、たがいに見つめあうくらいのことしか起らないのだ。だがそんな緩い設定でも、イギリス人は喜ぶらしい。「逢引き」の中の男女も、セックス抜きで盛り上がっていたものだ。そういう関係は、日本人の小生には理解しがたい。

香港映画というと、ジャッキー・チェンの「燃えよドラゴン」シリーズなど、独特のアクションものが人気を博したものだが、こういう人間の機微にせまった映画もまた捨てがたいということか。なお、タイトルの「花様年華」は、「花様的年華」とも言われ、「花のように華やかな人生の一時期」というような意味らしい。人間恋をしているときが、人生の花とはいえる。




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