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オランダ映画「コレクター 暴かれたナチスの真実」 
オランダ人実業家の人道犯罪を暴く



2016年のオランダ映画「コレクター 暴かれたナチスの真実(De Zaak Menten
)」は、ナチ協力者としてユダヤ人を虐殺し、財産を強奪したオランダ人の犯罪を、ユダヤ系のオランダ人ジャーナルストが調査・追及し、ついに裁判にかけて有罪に追い込む過程を描いた作品。ナチのホロコースト関係者の責任追及をテーマとした一連の作品のうちの一つである。特徴は、犯罪者がオランダ人であること、その犯罪がオランダ国外のポーランド領内(当時のリヴィウを含む)で行われたということだろう。国外の犯罪はなかなか問題にはならないものだ。まして、この映画の舞台となった1970年代は冷戦の最中で、東側で起きた犯罪を西側で裁くのはむつかしかった。

オランダの雑誌編集者クノープのもとに、人道犯罪を告発する電話がかかってくる。クノープは当初まともに相手にしなかったが、事実を知るに及んで、調査にのめり込んでいく。事実というのは、オランダの大実業家として知られるメンテンが、ポーランドでナチの協力者となり、大勢のユダヤ人を虐殺し、また財産を強奪したというものだった。クノープは、メンテンと直接会い、自分はあなたを追求するつもりだと告げる。

かくして両者の戦いが始まる。メンテンはすでに1950年代に、ナチスへの協力容疑で裁判を受けていた。その際には形式的な罰でやりすごし、裁判を担当したものに復讐をした。そのやり方がすさまじいので、メンテンを敵に回すのは利口ではないとクノープは色々な人から忠告される。雑誌の経営者レベルも、メンテンの報復を恐れ、公平を理由にメンテンに有利な記事を載せるという配慮をする。

だが、クノープはどんな圧力にもめげず、調査に邁進し、折に触れてそれを記事にする。そんなクノープを同僚記者は、お前がそんなに熱心なのは、お前自身ユダヤ人だからだろうと揶揄する。

検察を巻き込んだ捜査は難航し、一審、二審は無罪となる。だが最高裁で覆る。重要な証言が出てきたのだ。メンテンの弟が自主的に出廷して、決定的な事実を証言したのである。この兄弟は仲が悪く、弟は兄に意趣をいだいていたのだったが、当初は兄に不利な証言をするつもりはなかった。ところが兄の側が、弟が犯人だと主張したと聞いて考えが変わる。怒りが込み上げてきたのだ。

かくしてメンテンは有罪となり、正義は実現されたが、その一方でクノープはジャーナリストとしてのキャリアを失った、というような内容である。

クノープによる追求のプロセスを追うのと並行して、メンテンの過去が再現される。その再現の仕方が、あたかも別の物語を挿入するような形になっており、多少の不自然さを感じさせる。当事者の回想という形をとるなど、もっと気の利いた演出がありえたのではないか。




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