壺齋散人の 映画探検
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白いリボン:ミヒャエル・ハネケ



ミヒャエル・ハネケの2009年の映画「白いリボン(Das weisse band)」は、第一次世界大戦勃発直前のオーストリア社会の一断面を描いた作品。舞台はオーストリアのさる農村地帯。男爵が地主として君臨するある村だ。その村は人口の半分が地主の小作人である。小作人たちは、地主に対して身分的に従属しており、農奴に近い境遇として描かれている。その頃のオーストリア社会のことはあまりわからないが、ある種の農奴制社会が支配的だったのだろう。

登場人物には、地主のほかに神父の一家、医師、地主の家令や小作人の一家などが出てくる。物語には一貫性は感じられず、いくつかの不可解な事件が断続するということになっている。それらの事件が村人たちをきりきり舞いさせ、またそれらの事件を通じて、人々のつながりとか考え方が伝わってくるようになっているわけである。

事件を時系列であげると次のようになる。まず、医師が謎の事故に巻き込まれて大怪我をする、ついである小作人の女房が地主の作業場で事故に巻き込まれて死ぬ、地主の小さな息子が何者かによって怪我をおわされる、医師の妾の子が智慧遅れをいいことに何者かによって大怪我をさせられる、といった具合だ。どの事件も真相が明らかにされない。ただ、それらには神父の子どもたちがなんらかの形でかかわっているらしいことが暗示されるだけだ。

そうした事件の合間に、さまざまな登場人物たちの人間関係が明かされていく。地主とその妻とは心が通い合っていない、妻は小作人たちから憎まれていることが耐えがたく、その理由が夫にあると思っている。神父には大勢の子どもたちがいるが、どうも子どもをよく把握できていない。というより威圧的に臨んでいる。子どもたちはそのため、心が曲がってしまい、おそらく地主の子どもや智慧遅れの子どもの虐待にかかわっているのだろうと思わせる。

医師は怪我がなおると、妾の助産婦を追放する。お前とのセックスにはあきたというのだ。そのかわりに14歳の自分の娘を性的に虐待する。とんでもない男なのだ。地主の作業場で死んだ女の息子は、地主のために母親が殺されたと思い込んでいる、父親はそんな息子を叱りつける。地主ににらまれたら生きていけないのだ。ついにかれは自殺してしまうのである。

子どもらの通う学校の教師をしている若者は、ある小作人の娘に恋をする。この映画は彼の目からみた村の様子が回顧的に語られるといった具合に進んでいくのである。かれは思い通り娘と結婚できる。第一次世界大戦の勃発で徴兵されることとなり、出征の記念として結婚を許されるのだ。青年は戦争で生き残った。そのかれが戦後村での生活を回想するという形で映画は展開するのである。

真相のわからない事件をめぐって展開するという点では一種のミステリー映画だが、オーストリアのかつての半封建的な人間関係を絡ませている点では、社会的な視線を感じさせる。




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