壺齋散人の 映画探検
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マルセル・カルネの映画:作品の鑑賞と批評


マルセル・カルネ(Marcel Carné)は、ルネ・クレール、ジャン・ルノワール、ジャック・フェデー、ジュリアン・デュヴィヴィエと並んでフランス映画の五大巨匠の一人に数えられ、1930年代から40年代にかけて活躍した。彼の映画は「詩的レアリズム」と称されている如く、リアリズムを基調としながらも、そこに独特の詩情を漂わせているのが特徴である。男女の恋愛を描くことでは当代随一の名手といってよい。しかし、彼の映画作りの情熱は、単なる恋愛映画を作ることでは満足しなかった。

フランスがナチスによって占領され、他の芸術ジャンルと共に、フランス映画も停滞を余儀なくされた時期に、他の主要な映画監督が国外に亡命したのをよそに、一人フランスに留まり映画作りを続けた。その結果、マルセル・カルネは「悪魔が夜来る」と「天井桟敷の人々」という、映画史上に燦然と輝く名作を残した。これらの作品は、フランスの過去の歴史に題材を取りながら、ナチス占領下のフランス国民に、民族としての誇りを思い出させた作品なのである。特に「天上桟敷の人々」は、ナチスへの強烈な批判意識を、巧妙なオブラートに包みこみ、表面上は文句のいいようのないように作られているが、フランス人が見れば、だれもが民族の誇りを感じるようにできている。しかもマルセル・カルネは、映画のスタッフにユダヤ人を多く使うことで、ともにナチスに立ち向かう上での連帯感まで表出したのである。

こういう具合だから、マルセル・カルネはフランス人のナチスへのレジスタンスに連帯し、フランス人に民族の誇りを駆り立てた映画作家として、人々に敬愛された。主要な映画作家では彼だけがフランスにとどまり、フランス人としての心意気を示したのである。

カルネは、フランソワーズ・ロゼーと仲がよかった。ロゼーの夫であるジャック・フェデーに弟子入りし、1936年に「ジェニーの家」で監督デビューした。これは一組の母子を中心にして、フランスの庶民の生活感情を描いた作品で、「詩的シレアリズム」と呼ばれるかれの作風を感じさせるものだ。二作目の「おかしなドラマ」はフランス風の人情喜劇で、そうしたコメディタッチもカルネの作風の柱の一つとなった。これら二つの作品にフランソワーズ・ロゼーが主演している。

「霧の波止場」(1938)、「北ホテル」(1938)、「陽は昇る」(1939)といったいかにもカルネらしい映画を作った後、1942年に「悪魔が夜来る」、1945年に「天井桟敷の人々」をつくり、フランス人に大きな感動を与えた。大部分の映画人がナチスを逃れて国外に出ていた時期に、カルネは一人フランスにとどまり、フランス人の民族意識に訴えるような作品を作ったのである。

戦後は、「愛人ジュリエット」のような幻想的な作品も作り、テーマの多彩さを改めて人々に思い知らせた。マルセル・カルネはフランス映画のみならず、世界の映画史にとっても、一代の巨匠であったといえよう。ここではそんなマルセル・カルネの代表的な作品を取り上げ、鑑賞のうえ適宜解説・批評を加えたい。


マルセル・カルネ「ジェニイの家」 初老の女とその娘

マルセル・カルネ「おかしなドラマ」 植物学者と小説家を兼ねる男

マルセル・カルネ「霧の波止場(Le Quai des Brumes)」 ジャン・ギャバンとミシェル・モルガン

マルセル・カルネ「北ホテル(Hôtel du Nord)」 詩情豊かなメロドラマ


マルセル・カルネ「陽は昇る(Le Jour se lève)」 回想のなかの殺人事件

マルセル・カルネ「悪魔が夜来る(Les Visiteurs du Soir)」 中世に題材をとった時代批判映画

マルセル・カルネ「天井桟敷の人々(Les Enfants du Paradis)」 ジャン・ルイ・バローとアルレッティ

マルセル・カルネ「枯葉~夜の門」 イヴ・モンタンがシャンソンを歌う

マルセル・カルネ「港のマリー」 初老の男と小娘の恋

マルセル・カルネ「愛人ジュリエット(Juliette ou la Clef des Songes)」 ジェラール・フィリップの夢

マルセル・カルネ「嘆きのテレーズ(Thérèse Raquin)」 ゾラの小説「テレーズ・ラカン」の映画化




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