壺齋散人の 映画探検 |
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ルイ・マル(Louis Malle)が、海洋学者ジャック・クストーと組んで海洋記録映画「沈黙の世界」を作ったのは、弱冠二十四歳の時だった。その二年後に作った「死刑台のエレベータ」は、それまでのフランス映画の常識を覆す作品で、ルイ・マルはこの作品によってヌーヴェル・ヴァーグの先駆者と呼ばれるようにもなった。だが、本人はとくにヌーヴェル・ヴァーグを意識したことはないらしく、多彩な作品を作り続けた。実際ヌーヴェル・ヴァーグはルイ・マルとはかなり異なったコンセプトを追求していったのである。 |
「死刑台のエレベータ」と同年に公開した「恋人たち」は、フランスのブルジョワたちの糜爛した生活を描いていることで、まだヌーヴェル・ヴァーグに近いものを感じさせたが、つづく「地下鉄のザジ」は、ルイ・マルならではの独自の世界を描き出した。小さな少女が大人たちの世界を振り回すという設定は、そのコメディタッチの物語り展開とあいまって、フランス人好みの痛快なファンタジーとなりえている。 「鬼火」は心を病んでいる男の自殺願望をテーマとし、「好奇心」はローティーンの少年の性の目覚めといったことがテーマだ。こういう映画を見ると、セックスについておおらかなフランス人が、幼い頃からセックス教育を施されている実態を知らされる。こうした幼い頃からの陶冶があるおかげで、フランス人は生涯を通じてセックスを追求するようになるのだと、我々非フランス人は思わせられるのである。 「ルシアンの青春」は、いわゆる対独協力者をテーマにしたもの。ナチス占領下のフランスでは、多くの対独協力者が現れ、同胞のフランス人を迫害する立場に立ったわけだが、そうしたフランス人は、対独戦終了後厳しく責任を追及された。この映画の主人公の少年も、その責任を追及されて死刑にされることになっている。そういう話は、フランスではタブーになりつつあったのだが、ルイ・マルはあえてそのタブーを破り、対独協力者を取り上げたわけである。 「ルシアンの青春」から十年以上たって作った「さよなら子供たち」も、対独協力者とユダヤ人迫害がテーマである。この映画は、ルイ・マル自身の少年時代の体験をもとにしているといわれ。その文迫力を感じさせるものとなっている。 どちらの映画の中でも、対独協力者は、フランス社会から疎外されて生きて来たものが多いというような設定になっている。主人公の少年たちもその例にもれず、それまでの弱者としてのコンプレックスを、ドイツ軍の権威を盾にとって晴らそうとする特にルシアンの場合には、攻撃の矛先が最も弱い者としてのユダヤ人に露骨に向けられ、自分の立場を利用してユダヤ人女性を強姦したりするのである。 このほかにもルイ・マルは様々な傾向の映画を作った。ここではそんなルイ・マルの主要な作品を取り上げて、鑑賞しながら適宜解説・批評を加えたい。 ルイ・マル「死刑台のエレベーター」(Ascenseur pour l'échafaud) どじな殺人犯 ルイ・マル「恋人たち」(Les Amants):欲求不満の女の男遍歴 ルイ・マル「地下鉄のザジ」(Zazie dans le métro):大人をきりきりまいさせる少女 ルイ・マル「鬼火」(Le Feu follet):精神を病む男の自殺 ルイ・マル「好奇心」(Le Souffle au Coeur):フランス人の多感な思春期 ルイ・マル「ルシアンの青春」(Lacombe Lucien):対協力者の末路 ルイ・マル「さよなら子供たち」:ユダヤ人をかくまう学校 |
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