壺齋散人の 映画探検 |
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1993年の映画「トリコロール青の愛(Trois couleurs: Bleu)」は、ポーランド出身のクシシュトフ・キェレシロフスキがフランスで作った作品。「トリコロール三部作」の第一作目にあたる。 交通事故で夫と娘を失った女の喪失感がテーマである。女は生きる希望を失い、夫の残した財産のすべてを処分してアパートで隠棲生活を始める。だがまだ三十代前半の女盛りであり、世間から孤立して孤独をかこつわけにもいかない。男とやりたくなることもあるし、またアパートの住人と一定の付き合いもする。その一人は娼婦で、アパートからの立ち退きを迫られたのだったが、女は立ち退きの署名をしなかった。そのことを娼婦から感謝されたり、人生相談を受けたりする。さらには、一人暮らしの母親を訪ねて、慰めあったりもする。 という具合で、女の虚脱感がうかがわれるシーンが続くだけで、たいした展開は見られない。ただ二つだけ、重大なことが起る。一つは死んだ夫に愛人がいて、その女が夫の子を身ごもっていたことだ。女はその愛人を恨むどころか、夫の残した財産はその子が相続するのがふさわしいと言って、財産処分権を譲る。それに対して愛人は、あなたはいい人だと言う。あなたの夫である男も、あなたを寛大な人だといって褒めていたともいう。 この夫の言葉は、重大な事柄に言及していたことが明らかになる。夫は高名な作曲家で、ヨーロッパ統合を祝福する交響曲を作曲中だったのだが、それを妻である女が完成させるのだ。実は、妻には音楽的な才能があって、夫の作曲を支えていたようなのだ。その名声はすべて夫のものとし、自分は陰で支え続ける。そういう生き方を夫は、寛大だと言ったわけだった。 というわけで、いまどきめずらしい女性の寛大な生き方をテーマにした作品である。フランスの女は嫉妬深くてセックス好きというのが国際相場の評判だと思うのだが、この映画の主人公は、非常に寛大でかつセックスにも淡泊である。時たまやりたくなるのは、生理現象として避けられないが、普通の女のようにしょっちゅう発情しているわけではない。じつにユニークな、つまりフランス人らしくない女性をテーマにしているのである。それはキェレシロフスキがポーランド人であることと関係があるのかもしれない。 |
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