壺齋散人の 映画探検
HOMEブログ本館美術批評東京を描く水彩画動物写真西洋哲学 プロフィール掲示板


スペイン映画「パンズ・ラビリンス」:スペイン内戦と妖精の国



2007年のスペイン・メキシコ・作映画「パンズ・ラビリンス(El laberinto del fauno ギレルモ・デル・トロ監督)」は、スパイン内戦の一齣を、おとぎ話仕立てで描いたもの。この映画は以前見たことがあったのだが、改めて見る気になったのは、今ラヂオ放送でやっているスペイン語講座で、ゲストの活弁師がスペイン留学中の思い出として、この映画のことに触れているのを聞いて、おもしろく思ったからだ。再見に値する映画だというのが、率直な感想だった。

1944年のスペインが舞台。その年には内戦は事実上終了し、フランコの独裁が確立されていたが、カタロニアを中心にした反フランコ派のゲリラ活動もまだ健在だった。そのゲリラ部隊とフランコ派の軍人との対立が映画の表向きのテーマである。それに、主人公格の少女の冒険がからむ。その冒険とは、地下にある妖精の国を舞台にしたもので、少女はその国の案内役パーンから指示された課題をうまくこなせば、永遠の命をさずかり、妖精の国の女王になるだろうと予言される。少女はその指示に従って、妖精の女王になろうとするのだが、現実の闘いに巻き込まれた挙句、母親の再婚相手である軍人によって殺されてしまう、といったような内容である。

一応、現実の戦いと妖精の国の出来事とは、互いに無関係なものとして進んでいくのだが、最後に少女が殺されるところで、この二つの出来事は融合する。とはいっても、どちらか一方が、他方に強く影響するわけではない。妖精の国は、少女が殺されるのを阻止するわけでもなく、また、現実の戦いが妖精の国に及ぶということもない。妖精の国のことはそれ自体完結した世界のことであり、現実の世界では、フランコ派の軍人とゲリラ部隊とが血で血を洗う戦いを展開するのである。

その結果、フランコ派の軍人がゲリラによって殺されるところに、観客はある程度のカタルシスを感じることができるものの、少女は無残にも殺されてしまうわけで、その点では救いのない映画になっている。もっとも少女は、死後妖精の国に迎えられることにはなっているが。

フランコ派とゲリラの戦いをテーマとした映画としては、フレッド・ジンネマンの「日曜日には鼠を殺せ」などが思い浮かぶが、それをファンタジーがらみで描いたのは、この映画が最初ではないか。この映画は一応メキシコ人監督が主体となって作られたが、スペインでも大ヒットとなった。日本人の留学生も強い印象を受けたくらいである。

なお、フランコ派の軍人のもとに潜伏するゲリラの女性がメルセデスと呼ばれている。例のメルセデス・ベンツのメルセデスと同じで、スペインに多い女性の名である。語尾が「ス」で終わる女性名としては、ほかにレメディオスがある。これはガルシア=マルケスの小説「百年の孤独」に出てくる。




HOME南欧映画スペイン映画









作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2013-2023
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである