壺齋散人の 映画探検
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イギリス映画「冬のライオン」 王権をめぐる対立・抗争



1968年のイギリス映画「冬のライオン(The Lion in Winter)」は、12世紀のイギリス王室の権力争いをテーマにした作品。主人公は、プランタジネット王朝の創始者ヘンリー二世。かれには三人の息子がおり、晩年を迎えたヘンリー二世が、その息子たちとの間で、王位継承をめぐって対立・抗争するというような内容。それに、三人の息子たちの母親であるエレノアが加わり、対立関係は複雑なものになる。また、ヘンリーが愛人にしているアレーもからんで、対立は愛憎劇に発展したりもする。イギリスの王朝は、血ぬられた歴史を持っているが、ヘンリー二世をめぐる抗争は、そのひな型になったと言える。

五十歳になったヘンリー二世が、王位の継承について準備を始めることから映画は始まる。そこで三人の息子とその母親であるエレノア、またフランス王フィリップを呼び集めて、評議することとする。ヘンリー二世は、フランス王の姉アレーを妾にしている。アレーは、ヘンリーの長子リチャードの妻、つまり未来の王妃になることを条件として、アキテーヌの領土を持参金にやってきたのだった。ところがヘンリーはアレーを自分の慰み者にする一方で、王位をリチャードではなく末子のジョンに譲りたいと考えている。王妃のエレノアは、どちらかというとリチャードを贔屓している。彼女はもう10年間も、ヘンリーによって幽閉されており、それを恨みに思っている。そんな複雑な家族関係を背景に、王位継承をめぐる骨肉の争いが展開されるというわけである。

映画の冒頭で、ヘンリーが自分の立場をあのリア王にたとえるシーンがある。リア王は三人の娘に平等に領地を与えようとして失敗したが、自分は三人の息子のうち一人だけに継承させるつもりだと言うのである。小生は、リア王はシェイクスピアの創造であって、歴史上の人物とは思っていなかったが、このシーンが歴史を踏まえたものだとしたら、リア王は非常に古い時代に実在したということになる。実在はしていなくとも、12世紀にはすで広く知られた伝説上の人物だったのであろう。

映画の見どころは、ヘンリーとエレノアとの確執。三人の息子たちとヘンリーとの関係。そしてその息子たちをうまく操ってイギリス王家の混乱を願うフィリップの陰謀ぶりである。当時のイギリス王は、フランスの広大な領地を所有していたので、フランス王としては、なんとかイギリスを弱体化させ、領土を取り戻したいという野心をもっていた。そんなことから、フランス王フィリップとしては、ヘンリーと息子とを確執させる理由があったわけである。

この継承争いは、結局リチャードに軍配があがるのだが、映画はそこまでは追っていない。三人の息子たちがそろって幽閉されるところで終わっている。ヘンリー二世をピーター・オトゥールが演じ、エレノアをキャサリン・ヘップバーンが演じている。キャサリン・ヘップバーンは、「旅情」におけるような尻軽女のイメージも似合うが、この映画の中のエレノアのような、強情な女の役も似合っている。この映画出演時には60歳を超えていた。




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