壺齋散人の 映画探検
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エリザベス:エリザベス一世の若いころを描く



1998年のイギリス映画「エリザベス(Elizabeth シェカール・カブール監督)」は、エリザベス一世の若いころを題材にとった歴史映画である。だが史実を重視しているわけではなく、かなり歪曲している。映画としてのエンタメ性を優先させて、史実を軽んじたという印象を受ける。そのエンタメ性は、エリザベスを好色な女として描くことで下世話な関心を引き起こすこととか、エリザベスをイギリスを大国にした偉大な女王として描くことで、イギリス人のケチな愛国感情に訴えるという形をとっている。

エリザベス女王の時代に、イギリスが世界帝国としてのし上がったことは歴史的な事実なので、彼女をイギリスの王母のように扱うことには、それなりの理由がある。この映画の中では、イギリスの海賊たちが、世界中の海を席巻するところが戯画的に描かれているが、たしかにイギリスの海賊たちは、イギリスの国力向上に大きな役割を果たしたのである。イギリスの国力の源となった富の大部分は、海賊どもが他国からかすめとってきたものだ。

一方、エリザベスの好色ぶりは、いまでは伝説的な扱いを受けている。この映画の中では、彼女の若いころがテーマとあって、ロバート卿一人を相手に性的快楽にふけったというふうに描かれているが、彼女が生涯を通じて多くの愛人をもったことはよく知られた史実である。この映画の中でもエリザベスは、私は夫をもたず、男妾を作るのだと叫んでいる。

映画の冒頭では、エリザベスの母親アン・ブーリンが火あぶりにされる場面がある。その理由を映画では明示的に語っていないが、政治的な背景を感じさせるものとなっている。実際には、浮気の嫌疑によって処刑されたということだ。そのアン・ブーリンは尻軽な妾と呼ばれ、その子であるエリザベスは妾腹の娘としてさげすまれている。そのさげすまれていた娘が、なんだかんだといってイギリスの王位についたわけだから、イギリスという国の鷹揚さを感じさせもする。

この映画の最大の見どころは、エリザベスが、新旧の宗教対立に終止符をうって、イギリス国教会のもとに国民を団結させたというシーンである。実際には、イギリスの宗教対立はその後もおさまらず、17世紀の中ごろには大規模な宗教的動乱(宗教革命という)が起きている。

エリザベスを演じたケイト・ブランシェットがなかなかよい。とくに女の性的欲望を官能的に演じている。女王といえども、官能には忠実に生きるべきなのだという、女性なりの信念を全身で表現している。




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