壺齋散人の 映画探検
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ぼくの国、パパの国 イギリスのパキスタン人コミュニティ



1999年のイギリス映画「ぼくの国、パパの国(East Is East ダミアン・オドネル監督)」は、イギリスに移住したパキスタン人のコミュニティをテーマにした作品。そのパキスタンの出身者たちを、かなり冷笑的に描いている。とはいえ、原作者のアユブ・カーン・ディンはパキスタン系のイギリス人であり、パキスタンに対して否定的であるわけではない。かれの父親はパキスタン人であり、母親はイギリス人である。つまり、この映画の中の両親と同じなのである。そんなわけで、かれは自分の両親をこの映画の中に投影させているといってよい。それが冷笑的に映るのは、パキスタンの風習にこだわる父親への批判意識がそうさせるのであろう。

マンチェスターの郊外に暮す家族が主人公格である。家族はパキスタン人の父親、彼と25年前に結婚したイギリス人の母親、七人の子供たちからなっている。父親はパキスタン人としての誇りにこだわり、パキスタンの風習を尊重している。その風習は、基本的には家父長制にもとづいたものである。一家のことは父親が専断的に決める。家族はそれに従わねばならない。妻はいやいやながら従っているが、子どもたちは反発する。とりわけ、結婚相手を父親が勝手に決めて押し付けるのに反発する。映画は、長男が見知らぬ女と結婚させられそうになって、逃げ出すところから始まるのである。

父親はこれに懲りず、次男・三男の結婚相手も勝手に決める。それに対して、子どもたちは反発し、それに母親も同調する。その結果父親の権威は失墜する、といったような内容である。

メーン・プロットに付随したサブ・プロットにいくつか見どころがある。末の男子が割礼を強要されることはその一つ。パキスタンには男子を割礼する風習があるようだ。割礼はユダヤ人の専売というのではないわけだ。イギリス人の若者たちの享楽的な生き方も冷笑的に描かれる。若者がディスコでダンスに打ち興じる姿は、ムスリムには理解しがたいようである。なお、長男が結婚に拒絶反応を示したのは、彼の同性愛的な傾向のためだと匂わすように作られている。




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