壺齋散人の 映画探検
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ミュージカル「バンド・ワゴン」:落ち目の大スターの復活



ヴィンセント・ミネリの1953年のミュージカル映画「バンド・ワゴン(The Band Wagon)」は、1930年代のミュージカルの大スター、フレッド・アステアをフィーチャーした作品である。アステアは50年代に入ってもまだ人気はあったが、往年の勢いはあるべくもなかった。そんなアステアをこの映画は再び人々に熱狂的に迎えさせた。この映画を通じてアメリカの人々はアステアいまだ健在なりと受け取ったのである。

そのアステアの実像を感じさせるように、この映画は往年の大スターが、初心に帰ることで再び大スターとして復活するさまを描いている。この映画の中の主人公が復活に成功したように、実像のアステアも復活したと言うことで、この映画はアステアにとってのみならず、アメリカのミュージカル映画にとっても大きな意味をもったわけだ。

バンド・ワゴンという作品は、この映画のために新たに構想されたものではなく、アステア自身が1931年に舞台で演じたもののリメイクである。そんなこともあってこの映画はアステアにとっては二重に意義のあるものとなった。

筋書きはいたって単純だ。落ち目のミュージカルスターが、かつての仲間から新しいミュージカル作品の舞台を持ちかけられる。アステアの共演者にはバレリーナのギャビー(シド・チャリシー)が選ばれる。二人は最初は互いに打ち解けることができず、したがって舞台稽古は散々なうえ、解散の危機にも直面するが、なんとなく付き合っているうちにしっくりとして来る。

その挙句にいよいよ舞台が開演となるが、初日から散々な不評だったうえに、スポンサーたちも逃げてしまう。アメリカのミュージカルはスポンサーなしには成り立たないようなので、一時は一座解散の危機に面するが、アステアが中心となって邁進する。その結果すばらしい舞台が世間からも評価され、アステアはじめ一同が喜びに包まれる、といったものである。

この映画の魅力は、何と言ってもアステアとその仲間たちがくり広げるダンスと歌である。ダンスはアステア得意のステップダンスのほか、さまざまなジャンルの踊りが披露される。歌のほうも後々まで残ってスタンダードナンバーになったような迫力ある歌が次々と披露される。ザッツ・エンターテイメントとかダンシング・イン・ザ・ダークなどは今日でもよく歌われる。

こんなわけでこの映画は、アメリカン・ミュージカルの典型ともいうべき、楽しさと面白さを兼ね備えた作品である。



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