壺齋散人の 映画探検
HOMEブログ本館美術批評東京を描く水彩画動物写真西洋哲学 プロフィール掲示板


ミロス・フォアマンの映画:代表作の解説


ミロス・フォアマンといえば、映画史上最も有名な作品のひとつ「カッコーの巣の上で」の監督として知られる。この映画は、アメリカの精神医療を痛烈に批判したものだった。なにしろ精神病院のスタッフが、手に負えない患者にロボトニー手術を施して廃人にしてしまうという設定だ。それが、当時の世界でもあまりにも非人間的とうけとられ、それを正面から描いたこの映画は、スキャンダラスかつセンセーショナルな作品として受け止められた。


こうした社会批判的な作風は、チェコ人として、チェコ・ヌーヴェルヴァーグの旗手として活躍したフォアマンの特徴だと言われ、そのチェコでいわゆるプラハの春が終わりを告げたのを見届けたフォアマンが、活動の拠点をアメリカに移してからも変わらなかったとされた。彼のアメリカでの出世作となった「カッコーの巣の上で」は、アメリカン・ニューシネマの傑作といわれ、ミロス・フォアマン(チェコ語ではミロシュ・フォルマン)は社会派映画の達人と評価されるようになった。

だが、フォアマンは社会批判的な映画ばかりを作ったわけではなかった。彼のもう一つの傑作「アマデウス」は、文字通りアマデウス・モーツァルトの半生を描いたものだが、その映画には社会批判的な視点はうかがわれず、モーツァルトという人間を介して、人間の生き方を見つめるような作風になっている。しかも、映画には強烈な祝祭的雰囲気が感じられ、日本人なら歌舞伎を思い浮かべるような演劇的な工夫に満ちていた。そうした演劇的な性格は、チェコ時代につくった「火事だよ!カワイコチャン」にすでにあらわれている。もし、フォアマンに生涯変わらぬ特徴を認めるとしたら、それは演劇的・祝祭的雰囲気を最大限の効果をもって醸し出しているということだろう。

ミロス・フォアマンは、実父がユダヤ人だったという、母親はアウシュヴィッツで殺されている。養父はユダヤ人ではなかったが、政治的な活動をしたためにブッヘンヴァルト送りになっている。ミロス・フォアマンの反権力的な性格は、そうした家族関係に根差しているのかもしれない。ただ、かれはユダヤ人問題を表に出すことはしなかった。唯一ユダヤ人にこだわった作品は、遺作となった「宮廷画家ゴヤは見た」である。

その「宮廷画家ゴヤは見た」は、ミロス・フォアマンの世界の集大成といえる作品である。この映画はゴヤの伝記という体裁をとりながらも、ゴヤ個人の生き方よりも、ゴヤが生きた時代のスペインを批判的に描いたものだ。その時代のスペインは、異端審問が盛んで、その審問の網にユダヤ人がかかったというふうに設定している。異端者の迫害というテーマは、「カッコーの巣の上に」のテーマでもあり、フォアマンがいかに少数者の迫害に関心をもっていたかを示しているといえる。

ここではそんなミロス・フォアマンの代表作を取り上げ、鑑賞しながら適宜解説・批評を加えたい。



ミロシュ・フォアマン「火事だよ!かわい子ちゃん」:チェコの官僚主義を笑いのめす

ミロス・フォアマン「カッコーの巣の上で」:精神病院におけるロボトミー手術

ミロス・フォアマン「ヘアー」 ベトナム戦争批判のミュージカル

ミロス・フォアマン「アマデウス」 モーツァルトの半生を描く

ミロス・フォアマン「ラリー・フリント」 ポルノ雑誌ハスラーの創刊者

ミロス・フォアマン「マン・オン・ザ・ムーン」 アンディ・カウフマンの半生

ミロス・フォアマン「宮廷画家ゴヤは見た」 ゴヤの半生を描く





HOMEアメリカ映画









作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2013-2021
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである