壺齋散人の 映画探検
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ナイアガラ マリリン・モンローの出世作



1953年のアメリカ映画「ナイアガラ(Niagara)」は、できそこないのサスペンス映画だが、その割には人気を博した。というのも、この映画にはマリリン・モンローが初主演していて、彼女のトレードマークになったセクシーな尻ふり歩きを披露したからだった。そのセクシーな仕草に、好色なヤンキーが鼻の下をのばしたというわけだった。好色な男はアメリカ以外にもいるから、マリリンは一躍世界中の好色な男たちのアイドルになったのである。

そんなわけでこの映画は、マリリン・モンローの出世作となった。それまでの彼女は、デビュー以来ずっと脇役で出ていたのだったが、この映画で初めて主演をつとめ、しかも大きな成功を勝ち取ることができた。しかし、その割にはあまりいい役ではない。この映画の中のマリリンの役柄は、神経症の亭主に愛想をつかし、愛人を作って浮気を楽しんだあげく、その愛人に亭主を殺させようとする悪妻なのである。だがたくらみは失敗する。愛人は逆に亭主に殺されてしまうし、彼女自身も亭主に追い詰められたあげくに、あっさりと殺されてしまうのである。

つまり、頭の悪い悪女という役柄なので、人間的な魅力はほとんど感じさせない。それでもこの映画が大当たりをとったのは、マリリンが醸し出す独特の魅力の賜物だったといえよう。彼女は尻を振りながら歩く仕草を見せるだけで、スーパー女優への道を勝ち取ったのだ。

尻を振って歩くシーンは、おもなものだけで三か所ある。冒頭の部分、夫をおびき出すシーン、ナイアガラの滝でのシーンである。当然後ろ姿が写されるわけだが、後ろから見ると両方の尻を左右に大きく振り、見ている者の視線を惑乱させる態のものである。このセクシーな歩き方は、後に大勢の女優が真似をしたが、マリリンほど巧みな歩き方をできたものは、フランスの女優ジャンヌ・モローくらいだった。

この映画にはもう一人重要な役柄の女優が出てくる。バンガロー村で知り合いになった若い夫婦のうちの妻である。ジーン・ピータース演じるこの女性は、マリリンの浮気現場を目撃したりしたうえ、マリリンの夫(ジョゼフ・コットン)と妙な関係に陥る。マリリンがあっさり殺されたあとには、その夫と同じボートに乗り合わせるはめになり、しかもそのボートが故障して漂流をはじめ、ナイアガラの滝つぼに落下してしまうのである。その落下の直前、彼女は岩にしがみつき、ヘリコプターに救助されて、急死に一生を得る。そんな具合なので、マリリンが出ていなければ、こちらが主演といってもよいほどである。




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