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私はあなたの二グロではない:アメリカの黒人差別



2016年のアメリカ映画「私はあなたの二グロではない(I Am Not Your Negro)」は、アメリカにおける黒人への人種差別をテーマにしたドキュメンタリー映画である。黒人作家ジェームズ・ボールドウィンの未完成原稿を下敷きにしている。そのボールドウィン自身が画面に登場して、アメリカの人種差別のおぞましさを告発する。黒人だけではなく、原住民も差別されている。その原住民を悪魔のような存在に仕立て上げて、かれらを虐殺することを正当化するのが、アメリカ社会の真の姿だ。その真実をジョン・ウェインが象徴している。ジョン・ウェインは、西部劇映画の中でインディアン殺しを堪能した悪党というわけである。

ボールドウィンのほかに、メドガー・エヴァンス、マルコムX、マーティン・ルーサー・キングが出てくる。この三人は暴力による抵抗から無抵抗まで、それぞれ異なったスタンスをとっていたが、ボールドウィンはかれら三人をそれぞれ尊敬していた。そのボールドウィン自身は、白人を憎むのではなく、同じアメリカ人同士として支えあうべきだと考えていた。しかしその考えは、片思いのようなもので、現実には白人による黒人への差別には根深いものがある。

この映画は、そした根深い差別感情を、生々しい映像を通じて表現している。木に黒人を吊るして喜ぶ白人たち、黒人というだけで襲いかから白人警官たち。そんなアメリカで、黒人はたえず緊張にさらされ、常に命の危険を感じている。そんなことが公然とまかりとおるのがアメリカという国だ。アメリカ人は理想とか熱情とかきれいごとをいっているが、それは白人仲間だけに通用することであって、原住民や黒人には当てはまらない。なぜなら原住民や黒人は、白人とは違った生き物だからだ。そういうすさまじい差別感情が、この映画からは強烈に伝わってくる。

最近の出来事として、2014年に起きたファーガソン事件が触れられている。この事件は、白人警官が丸腰の黒人青年を殺したというものだが、その事件の取り扱いをめぐって、黒人による暴動騒ぎが起こった。それに触れることで、アメリカは21世紀のいまでも、まだまだ野蛮な国だといいたいのであろう。作者がこのドキュメンタリー映画を作ったのは、いまだにやまない暴力への強い抗議としてだったのではないか。

なお、この映画の作者ラウル・ベックは、ハイチ出身の黒人映画監督である。ハイチは黒人主体の国だから、そこから見たアメリカの黒人は、あまりにも不当な扱いを受けているように見えるのだろう。




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