壺齋散人の 映画探検
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ドキュメンタリー映画「主戦場」:慰安婦問題をインタビューで追う



2019年のドキュメンタリー映画「主戦場」は、韓国人の慰安婦問題をめぐる日本国内の政治的な対立に焦点をあて、左右両派へのインタビューを中心にして組み立てた作品。ほとんどがインタビューの紹介で、その合間に日本国内のナショナリズム運動の高まりに注目するという方法をとっている。インタビューの内容は、回答者の個人的な信念を率直に語らせるというもので、そこには作為性はないと思われる。にもかかわらず、右派からは強い反発が出て、藤岡信勝ら一部の出演者から訴えられる騒ぎになった。かれらがなぜそこまで逆上したのか、よくはわからない。

監督は日系アメリカ人のミキ・デザキ。日本の上智大学に留学し、その卒業制作という名目で作ったようだ。それに右派の連中も快く協力したということらしい。ところが映画の中では、かれらの主張が一方的に否定されるような編集のされ方がされており、善意で協力したのに結果的にだまされたという不満が、かれらを怒らせたようである。この映画には、ジャーナリストの桜井よしことか、自民党の政治家杉田水脈なども登場する。櫻井は慰安婦問題ではもっとも過激な否定論者として知られるが、映画の中ではあまり目立った発言はしていない。その役割を杉田が果たしており、慰安婦を売春婦だといって卑下している。

デザキはアメリカ国籍の人間とあって、アメリカ国内でのこの問題の受け取られ方にも注目している。アメリカでは、現地の日系人が中心となって、慰安婦像の設置への反対運動などをくりひろげ、それを右翼的な白人が応援するという構図が展開されていたようだ。アメリカの白人には、ケント・ギルバートのように、日本国内向けに慰安婦は自発的な売春婦だったと主張するものもいる。ケント・ギルバートは、デザキへの訴訟にも参加している。

右派の連中には、慰安婦を卑下するだけでなく、韓国という国そのものを貶める発言をするものも出てくる。たとえば加瀬英明。加瀬は、韓国人は育ちの悪い子どもで、そのいうところは信用できないといった趣旨の言葉を臆面もなく吐いている。そういう連中の発言が画面の多くを占めるので、この映画を見た人は、日本には平然と歴史を否定するばかりか、自国を賛美しながら隣国を貶めるような人が多数いるのだと、誤解しかねない。ともあれ、この映画を見て感じたことは、日本人同士が深く分断されているということだ。その分断は、政治的な姿勢の違いからくる。この映画の中の日本人は、実に政治的な傾向を強くおびた存在なのである。




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