壺齋散人の 映画探検
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ドキュメンタリー映画「アラン」:アイルランドの離島の厳しい生活



1934年のアメリカ映画「アラン(Man of Aran)」は、ロバート・フラハティのドキュメンタリー・タッチの映画。フラハティは「ドキュメンタリー」という言葉を始めて冠せられた映画作家であり、したがってドキュメンタリー映画の草分けとして歴史的な意義をもった人である。「アラン」はそのフラハティの代表作といってよい作品。

アイルランドの離島における人々の厳しい生活がドキュメンタリー風に描かれる。ドドキュメンタリー風というのは、一応プロの俳優を起用しながら、対象となるものは現実の世界そのままという意味である。ドラマではなく、現実の世界の出来事を、俳優に演じさせるというわけである。

アラン島は、アイルランドの最西北端の海上にある離島。岩だらけのやせた土地で、ろくな作物が育たない。そこで人々は、岩を打ち砕きとりのぞいて、わずかばかりの畑地をつくり、そこでジャガイモを栽培しようとする。その一方、粗末な船で海に漕ぎ出し、食用の魚を釣ったり、燃料の油脂をとるためにサメを捕獲したりして暮らしている。サメは巨大なので、小人数ではうまくいかない。島の男たちが総出で取り組むのである。

映画は、夫婦と子供二人の家族を中心にして、岩を砕いて畑をきり開き、そこに海藻をまぜて肥料にする様子とか、巨大なサメを粗末な船に乗った男たちが捕獲する様を描く。捕獲したサメは、小分けに切り裂いたうえで、肝臓を煮詰めて油脂を取り出すのである。油脂は主に照明用にあてられる。まだ20世紀も始まったころのことだから、動物の油脂を照明用に用いていたのであろう。かの「モービーディック」の世界でも、クジラから油脂をとるために、盛んに捕鯨が行われていたものだ。アイルランドでは、クジラではなくサメが油脂の材料になるということだが、サメを熱帯の生き物だと思い込んでいた小生には、アイルランドの海にサメが大勢いるのは意外だった。

北海の海は厳しい。いったん荒れだすと、粗末な船ではなかなかコントロールできなくなる。映画は、巨大な波に翻弄される小舟に乗った夫の身を心配する妻と息子の不安そうな表情を映し出す。粗末な小舟では、波の勢いに逆らうことはできない。そこで船全体をサーファーのように操り、大波に乗る形で岸辺に向かうというやり方が取られる。船は器用に波にのって、ついには岸に打ち上げられる。乗りこんでいた男たちはすばやく陸にあがる。その直後船は波に砕かれて解体する。男たちは危ういところで命拾いをしたのである。そんな綱渡りのような危険な生き方を、この映画は描く。ドキュメンタリーとしては、ドラマチックな要素に満ちているというので、非常に評判になったそうだ。




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