壺齋散人の 映画探検
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ドキュメンタリー映画「ようこそ映画音響の世界へ」 音響技術発展の歴史



2019年のアメリカ映画「ようこそ映画音響の世界へ(Making Waves: The Art of Cinematic Sound ミッジ・コスティン監督)」は、映画における音響の役割の意義とその発展過程を歴史的に解明した作品。音響の専門家たちを多数出演させて、音響技術の発展がいかに映画を変えてきたかを丁寧に説明している。一応ドキュメンタリー映画の体裁をとっているが、音響専門家による音響芸術についてのプロパガンダ映画という印象を受ける。

出演する音響専門家は、ウォルター・マーチ、ベン・ハート、ゲイリー・ライドストロームら、ハリウッド映画の音響技術に革命的な変革をもたらしたと言われる人々だ。かれらと手を携えて、映画における音響の役割に自覚的だった映画監督も多数登場する。ジョージ・ルーカスやスティヴン・スピルバーグといった面々だ。かれらによると、映画製作会社は音響の役割に理解がなく、なかなか金をだしてくれなかった。そこで、自分らの力で音響の役割を認識させる必要があったということだ。その努力は、単に音響効果を洗練させることばかりでなく、技術の飛躍的な変革をももたらした。この映画が特筆している音響技術の革新としては、ステレオから5+1サラウンドへの進化、デジタル技術の採用といったものがあげられる。

アメリカ映画であるから、もっぱらハリウッド映画がとりあげられる。ハリウッドの映画製作会社が音響を軽視したのは、歴史的な背景があるようである。ハリウッド映画はサイレント映画から始まり、映画製作上の基礎的な条件はサイレント時代にほぼ出そろったこともあり、トーキー以降に新たに加わったものは少ない。音響が唯一新しい要素だったわけだが、それについて多くの映画人はあまり意識的ではなかった。音響が映画の重要な要素として認識され、したがって多大な力が音響にそそがれるのは1970年代に入ってからだという。音響専門家たちは、1970年代をもっとも輝かしい時代だと回顧している。

映画音楽も音響効果と並んで重要な役割をしめる。その映画音楽に、日本人の冨田勲が大きな影響を及ぼしたと紹介されている。シンセサイザーの音が映画に融和的と思われたからだと思う。




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