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想田和弘「選挙」 市議会選挙運動を追ったドキュメンタリー



想田和弘の2007年の映画「選挙」は、さる市議会議員選挙に取材したドキュメンタリー映画。想田自身は監察映画と言っている。自身が観察したところを包み隠さずカメラに収めたというところだろう。じっさい想田は自分でカメラを回しているそうである。

取材の対象は、2005年10月に実施された川崎市議会の補欠選挙に立候補した山内和彦。自民党の公募に応じて候補者に指名されたのだった。当時の自民党は、小泉の郵政解散選挙の直後で勢いがあった。山内もわざわざ小泉自民党の候補というふれこみで打って出た。その選挙戦の様子を、一切の価値判断を交えずに忠実に追っている。候補者との密着ぶりがうかがわれる映画だが、じつは想田と山内は東大の同級生だということだ。

この補欠選挙は、自民党と民主党との事実上の一騎打ちで、議会構成の点から自民党は負けられなかった。そんなわけで、自民党は党をあげて山内を応援した。山内としては、今回は自民党のすべての人から応援してもらえるが、二年後の本選挙ではどうなるかわからない。その際には、同僚議員がライバルになるわけで、応援してもらえる可能性は低いのだ。

とにかく、議員個人に密着するとともに、自民党の関係者にも深く食い込んで撮影できている。想田和弘はいまでは、リベラル派の論客として名を知られているので、保守派の人は警戒して密な取材はさせないだろう。当時は名が知れておらず、しかも候補者個人の友人ということで、関係者は油断したのだと思う。

日本のいわゆるどぶ板選挙の典型のような選挙ぶりである。駅前や住宅地で連呼を繰り返し、妻を動員して夫の名を叫ばせる。自民党の同僚議員らも加勢する。山内本人には地域に基盤がないので、同僚議員らが自分の地盤である団体等を仲介する。山内はその団体に赴き、頭が膝にふれるほど低くたれ、ひたすら好意を願う。そんな自分の姿を山内は、友人である想田に自嘲気味に語るのである。

この選挙に合わせて、市長選挙と参議院の補欠選挙があり、それぞれの運動も紹介されている。市長候補は、行財政改革を叫び、保育所の民営化を公約にあげている。一方山内のほうは、同じく行財政改革を叫びながらも、保育所の充実を公約する。つまり、同じ自民党でも、市長選と市議選ではスタンスがちがうわけだ。そこが自民党の面白いところだ。

なお、山内はこの選挙には当選したが、二年後に行われた本選挙では、党内の力学に押し流されるかたちで立候補を断念した。つまり、ショート・リリーフとして扱われたわけである。




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