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妻は告白する:増村保造のサスペンス映画



増村保造は若尾文子と相性がよかったとみえ、監督デビュー第二作目の「青空娘」(若尾24歳)で主役に起用してから、実に20作品も付き合っている。その中で1961年の「妻は告白する」は、増村にとっても若尾にとっても転機になった作品だ。若尾はこの同じ年に、川島雄三の「女は二度生まれる」にも出演しており、両作品あいまって本格女優の風格を身に着けるようになった。増村は増村で、単なる娯楽映画ではなく、技巧派の巧者という評判を享受するようになった。

不自然な死をめぐって、殺人容疑で行われた裁判を中心に展開していくので、一応法廷ドラマの体裁をとっている。また、容疑者の若尾文子の意図が最後まで明かされないので、心理的なサスペンスドラマの要素も強い。法廷劇としては、人間ドラマの凝縮されたものといえ、サスペンスドラマとしては、娯楽的な需要にこたえるものとなっている。

殺人容疑というのは、若い男を伴なって北穂の岸壁によじ登った夫妻のうち、事故で夫ともども宙づりになった妻が、ザイルを切って夫を谷間に転落させ死亡させたというもの。そこでザイルを切ったのは、夫を殺す意思があったからではないかと、検察側は追求する。それに対して弁護側は、緊急避難の法理で対抗する。結局弁護側の主張が認められ、妻は無罪となる。

その妻と深い関係になりつつあった若い男(川口浩)は、妻には殺意はなく、あくまで緊急避難だと思い込んでいたのだが、しかし妻が夫への殺意があったことを告白し、あまつさえ、夫の死によって多額の保険金が入ったことを喜ぶのを見るにいたって、妻への幻滅を感じる。その若い男に捨てられた妻は、その男の会社で青酸カリを飲んで自殺するというような内容である。

法廷劇の体裁はさておいて、この映画の見どころは、夫との結婚生活への絶望と、若い男への思慕に揺れる人妻の心である。この人妻は、幼いころから不幸な境遇だったうえに、意に染まない結婚を強いられて人生に絶望していた。その絶望から抜け出すために、夫を殺害し、自由な身になりたいと願ったというふうになっている。要するに、不幸な女の不幸な選択をめぐる悲劇というわけである。

この映画の中の若尾文子は、その不幸な女を見事に演じている。若尾は二年後(1963年)の「越前竹人形」(吉村公三郎)でも不幸な女を演じるのであるが、彼女が演じる不幸な女は、実にリアルでしかも、人の心を揺さぶるようなところがある。やはり大女優と言われるだけのことはある。もっとも彼女は生涯に260本もの映画に出演しており、中には駄作も多いのであるが。




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