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アスガー・ファルハディ「セールスマン」:夫婦関係の危機



アスガー・ファルハディの2017年の映画「セールスマン」は、夫婦関係の危機をテーマにした作品。危機の原因となったのは、妻が家のなかで男に強姦されたことだ。それについて夫は警察に届けようというが、妻はいやがる。表沙汰になって、さらし者にされるのがいやなのだ。そこで夫は、独力で犯人捜しをする。その努力が実って犯人を探し当てる。その犯人とは、よぼよぼの老人だった、というような内容である。

映画の見どころは、妻が警察沙汰をいやがることと、夫が独力で犯人の手がかりを求め歩くところである。妻が警察沙汰をいやがるのは、警察への不信があるのと、そのことで世間のさらし者になることへの恐怖があるためである。日本の警察も強姦事件への対応には手ぬるさが指摘されるが、イランの警察はそれ以上にひどいらしい、ということがこの映画からは伝わってくる。

夫が犯人追求をあきらめないのは、眼には眼をといった、イスラム流の正義感覚が働いているからだろうか。しかしやっと探し当てた犯人がよぼよぼの老人だったことで、かれの正義感は肩透かしをくらう。こんな老人では、報復する気にもなれないということだろう。

かれら夫婦は、事件の舞台となったアパートに引っ越してきたばかりなのであるが、その前に住んでいたアパートは、おそらく大地震かなんかで、崩壊したということになっている。映画は、かれらが命からがら崩壊するアパートを脱出するシーンから始まるのである。

タイトルの「セールスマン」は、この夫婦が劇団の俳優として目下取り組んでいる芝居「セールスマンの死」にちなんだもの。映画のストーリーとは関係はないが、その芝居の稽古や上演の様子が、ところどころでさしはさまれる。




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