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立ち去った女:ラヴ・ディアス



2016年のフィリピン映画「立ち去った女」は、フィリピン映画としてはじめて、世界三大映画祭のグランプリ(ヴェネツィアの金獅子賞)をとった作品。四時間近い長編だが、監督のラヴ・ディアスはこれを超える長編映画を幾つも作っており、長編作品が得意ということらしい。

冤罪で30年間も服役した女の復讐劇。だからある種のサスペンスなのだが、サスペンス感覚は全くない。かえってのんびりとした雰囲気の映画である。フィリピン人というのは、こういうのんびりとした感覚が好きなのだろうと、思わされるところだ。

刑務所の服役仲間の女が、自分の冤罪を証明してくれた。その女によると、ある男と共謀して彼女に殺人容疑をかけたという。その男というのが、かつての自分の恋人だったというので、主人公の女は驚く。そこで彼女は、その元恋人に復讐することを決意するのだ。

こうして彼女の復讐劇が始まるというわけだ。自分の家に帰ってみると、夫は死んでいて息子は行方不明、娘とは会えたものの、家族はばらばらになったまま。そこで彼女は、家財産を処分して、復讐の旅に出る。

仇が住んでいる町にやってきた彼女は、さまざまな人間たちに出会う。バロット(孵化直前のあひるの卵を茹でたもの)を売り歩く初老の男、ガラクタを持ち歩くホームレスの女、そして癲癇発作をおこすゲイの男といった具合だ。彼らから聞いた話をもとに、殺しのタイミングをねらう女。殺しには拳銃を使うつもりで、手頃なのを手に入れる。フィリピンではたやすく拳銃が手に入るようなのだ。

いよいよ殺しのチャンスがやってくるが、彼女は尻込みする。怪我をしたゲイの世話をするうちに決意が鈍ったのだ。彼女のそうした事情を知ったゲイが、彼女にかわって復讐をしてくれる。仇を拳銃で殺したのだ。

目的を失った彼女は、マニラに移動して、行方不明の息子を探すことにする。映画はそんな彼女のやつれた姿を映しながら終わるのだ。

画面がゆったりと進んでいく。ロングショットの長回しが延々と続く。そして夜のシーンが圧倒的に多い。また屋内のシーンも多い。とにかく昼の明るいシーンが極度に少ないのだ。そんなところから独特の映像感覚をもたらす。ヴェネツィアで高く評価されたのは、そうした型破りな演出が強い印象を与えたからだろう。

個人の復讐とならんで、フィリピン社会のすさんだ状況が批判的にコメントされる。フィリピンでは、誘拐や殺人といった犯罪が大規模に日常化している、といったメッセージが伝わってくる。それはもしかしたら、ドゥテルテのもとで進んだ、ある種のジェノサイドへの批判を意図していたのかもしれない。




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