壺齋散人の 映画探検
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トルコ映画「ミルク」 大人になる過程の少年



2008年のトルコ映画「ミルク(セミフ・カプランオール監督」は、同監督の作品「卵」の続編と言われている。ユスフという人物の生涯の断片をそれぞれ描いたというのだ。これに後の「蜂蜜」を加えてユスフ三部作などと言われるが、内容上のつながりがあるわけではなく、批評家によるこじつけのように思える。全く別の作品として受け取ってよいものだ。

母と二人で暮らす少年の大人になる過程を描いた作品。この少年は、高校を出たばかりで、詩人になる夢をもっている。だが詩はほとんど注目されない。そこでかれは、母親と一緒に市場で牛乳を売って細々と生計を立てている。そんな少年は、詩の仲間と話しあったり、本屋で見かけた詩の好きな女性と出会ったりする。また、年頃なので徴兵検査を受けたりする。検査では不合格になる。

一方母親のほうは、たまたま出会った子持ちの中年男と仲良くなる。彼女はこのまま老い朽ちるのがいやなのだ。息子の目を盗んで男と付き合う。それを垣間見た息子はショックを受ける、というような内容で、とくに劇的な筋書きがあるわけではない。

ゆったりとしたカメラ回しで、トルコの田舎町ののどかな様子が映し出される。主人公たちの動きも緩慢なので、全体としてのんびりとした印象を与える。トルコ映画には、こうしたゆったりした雰囲気の映画に傑作が多いようだ。

映画の冒頭で、魔術のような光景が写しだされる。大木に逆さにつるされた女が、ミルクの湯気で生気を吹き込まれ、口からヘビを吐くというシーンである。なぜこんなシーンを冒頭に取り込んだのか、その意図がよくわからない。もしかしてこの女性は、本編の中の母親なのかもしれない。本編の中で母親がヘビをおそれる場面がある。そのヘビにもし母親がにらまれたとするなら、彼女は息子の怨念にたたられたということになろう。




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