壺齋散人の 映画探検
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トルコ映画「スリー・モンキーズ」 犯罪の身代わり



2008年のトルコ映画「スリー・モンキーズ(ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督)」は、トルコ人の人間関係をテーマにした作品。他人が犯したひき逃げ事件について、身代わりになって刑務所に入る男とその家族を描いている。男は他人の罪をかぶって刑務所に九か月入れられたばかりか、ひき逃げした男に妻を寝取られる。いわば踏んだり蹴ったりの扱いをされる。そうした境遇の彼らを、タイトルが表現しているとしたら、彼ら三人の家族はサルにたとえられているわけだ。

ひき逃げ犯はさる企業の経営者で、もっか選挙に立候補中。ひき逃げが公になれば選挙にさしつかえる。というわけで、他人を身代わりにたてる。自分の運転手を務めている男だ。多額の償いをするからという条件を男は受け入れ、刑務所に入る。ところが、夫が刑務所に入っている間に、妻がそのひき逃げ犯とねんごろになる。その濡れ場を、息子が目撃してしまう。そこから家族の崩壊が始まる、というような内容だ。

男が刑務所から出てくると、家の中の様子がおかしい。男は、妻が間夫をしていると直感する。妻もそれを認める。だが、夫ではなくひき逃げのほうと一緒になりたいと考えている。それをひき逃げが拒絶する。妻は絶望する。そうこうするうちに、ひき逃げが誰かによって殺される。男と妻が警察に尋問されるが、ふたりとも心当たりがない。じつは息子が殺したのだ。

息子を大事にしている男は、自分が身代わりになるか考え、いったんは警察署前まで行く。だが思い直す。自分も第三者を身代わりに立てようと考えるのだ。それには都合のよい人間がいる。知り合いの若い男で、かつかつの生活をしている。その男に良い条件を提示して、身代わりになってもらおうというのだ。

日本人には、ほとんど考えられない設定だ。家族ならともかく、他人の犯罪の身代わりにすすんでなるというのがまず異常だし、また、自分が背負った重荷を他人に背負わせようというのも理不尽だ。そんな理不尽が、トルコでは成立しうるのか。考えさせる映画である。




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