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トルコ映画「わが名はキケロ ナチス最悪のスパイ」



2019年のトルコ映画「わが名はキケロ」は、副題にあるとおりナチスのスパイをテーマにした作品。そのスパイはアルバニア人で、かれがナチスのためにスパイする様子をトルコ映画が描くというのは面白い。そのスパイは実在の人物で、トルコの首都アンカラで暗躍していたというから、トルコ人が興味をもつのも不思議ではない。

キケロとは、ナチス側がスパイにつけたコードネーム。その男はアルバニア人で、一家をイギリス軍に殺されていた。かれはそのことを恨み、アルバニア人の民兵に復讐してもらったのだが、それでも怒りは収まらず、ドイツにイギリスをやっつけてもらいたいと思っている。かれがナチスのスパイになったのは、イギリスへの復讐のためなのだ。

その男は、要領よく在トルコ英国大使の執事におさまる。そこでイギリス側の機密書類を写真にコピーし、それをドイツ大使に売り込む。そのドイツ大使の秘書に美しい女がいて、かれはひょんなことからその女と恋に陥る。その女にはダウン症の息子がいて、ドイツ人の彼女はナチスの優勢保護的な政策に脅威を感じている。

そんなお膳立てで映画は展開する。スパイと女秘書は互いに相手のプライバシーを知らないまま逢引を重ねる。その逢引は、女の家で子どもを含めての食事会というかたちを取ったりする。スパイの目的は、イギリスを敗北させることであり、そのためにナチスドイツを利用しているつもりなのだが、そのナチス側が、女への迫害を強める。大使が女に横恋慕するほか、その子どもを収容所に送ってしまうのだ。それを知ったスパイは、ナチスに幻滅する。かといってイギリスに鞍替えするでもない。女と一緒にどこかで静かに暮らしたいと思うのだ。

この映画の要点は、アルバニア人のイギリスへの憎しみと、ナチスドイツの非人間性だ。そのはざまに立たされたら、どちらにつく気にもなれない。実在したという主人公のスパイは、戦後はドイツで暮らしたそうである。




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