壺齋散人の 映画探検
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陳凱歌の映画「空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎」:中国滞在中の空海



陳凱歌の2017年の映画「空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎( 妖猫伝 )」は、弘法大師空海の中国滞在中の一齣を描いた作品。この映画の中の空海は、修行僧というよりは悪戯坊主のイメージを振り舞いている。その悪戯坊主が中国のいたずら者白楽天と組んで、奇想天外な冒険をするというような内容だ。

弘法大師空海といえば、いまでも多くの日本人にとって心の支えであり、弘法大師と同行二人の旅を続ける人は膨大な数に上る。そうした人びとにとって、この映画は、許しがたいものがあるのではないか。しかもこの映画は日中合作ということになっており、日本側からは角川書店の社長が出資している。角川書店の社長は右翼民族主義者として知られているという。その民族主義者がどういうわけで、日本民族の偉大な宗教家空海を貶めるような映画の制作に一枚かんだのか。

史実に基づいた話ではなく、荒唐無稽な想像の産物である。空海が唐の都長安で駆け出しの詩人白楽天と知り合い、ある事件にかかわりあう。その事件とは、怪しい黒猫が次々と殺人事件を引き起こすというものだった。その事件を追っているうち、黒猫は、楊貴妃の無念を引きずった妖怪であり、その無念をはらすべく、楊貴妃殺害にかかわったものに復讐の手を下ろしているということがわかる、というような内容だ。

空海を染谷将太が演じている。染谷はどう見ても修行僧のイメージではなく、いたずら小僧のイメージだ。そのイメージのまま悪戯坊主空海を演じている。面白いのは、染谷が中国語をしゃべっていることで、これは彼なりの特訓の成果だという。

楊貴妃が引き合いに出されてくるのは、白楽天の長恨歌からの連想で、そのかかわりのなかで阿倍仲麻呂も出てくる。その仲麻呂を阿部寛が演じているのは、「あべ」同士のよしみか。なおその「あべ」は中国語では「アプー」と発音され、空海のほうは「コンハイ」と発音されている。

空海が戯画化されているほかは、単なる娯楽映画というべきで、とくに指摘すべきような工夫は見当たらない。ただ、李白が泥酔しながら「清平調」三篇を即興でつくる場面がある。そこが見せ所となっている。日本人にはあまりピンと来ないが、中国人にはそういう場面はうれしいのだろう。



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