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ジャック・ベッケル「穴」:刑務所からの囚人の脱獄



ジャック・ベッケルの1960年の映画「穴(Le Trou)」は、刑務所からの囚人の脱獄をテーマにした作品。実際に起きた脱獄事件について、その当事者の一人が書いた文章をもとに映画化したものである。当事者の証言に基いていることもあって、かなりな迫力を感じさせる。

脱獄の舞台となった刑務所は、パリのサンテ刑務所。フランスを代表する刑務所で、かつてはアポリネールもぶちこまれたことがあった。既決囚のほか未決囚も入っている。この映画の中で脱獄を企てるのは未決囚である。かれらには重い刑罰が待っているので、その前に脱獄して自由になろうというわけである。

五人の囚人仲間が脱獄計画を実践する。そのうちの四人は以前から仲間となっていて、かれらだけで脱獄するつもりでいた。そこに五人目が加わる。四人は最初新人に警戒したが、思い切って仲間に加えることにする。それがおそらく致命傷となって、脱獄計画は発覚し、四人は新たに逮捕され、新人は独房に収容保護されるというような内容である。

脱獄がテーマなので、映画のほとんどは、その脱獄の実践課程を描写することに費やされる。中には疑問に思わされるような不自然なところもあるが、それは映画のレトリックとして大目に見れば、脱獄へ向けての意気込みと緊張感が如実に伝わってくるように作られている。

脱獄をテーマにした映画としては、1956年にロベール・ブレッソンが作った「抵抗」がある。これはドイツ軍に投獄されたレジスタンスの闘士が脱獄を試みるというもので、脱獄が成功したという結末になっている。それに対してこの「穴」では、脱獄は失敗する。そこは、レジスタンスとただの犯罪人との違いが反映しているのだろう。ただの犯罪人の脱獄を成功させるようでは、社会の秩序が保たれないからだ。じっさいこの映画の中の脱獄囚には、政治的な背景は全くなく、ただのケチな犯罪者なのである。

とはいえ、男同士の友情は強調されている。その映画に何か見どころがあるとすれば、男同士の友情だろう。その友情が、ちょっとしたことで損なわれる。脱獄計画が発覚したのは、新人が老獪な署長の罠にはまったからだということになっており、その新人自身には、たいして自責の気持ちはないのだが、ほかの四人は裏切られたと感じるのだ。

そんなわけでこの映画は、脱獄という極限的な状況を通して、男同士の結びつきに焦点をあてた作品ということができよう。




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