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カサノヴァ:フェデリコ・フェリーニ



ジャコモ・カサノヴァは18世紀に実在した人物で、その数奇な女性遍歴からイタリアのドン・フアンと呼ばれている。かれは死後に自叙伝を残した。「カサノヴァ回想録」という題名で邦訳も出ているから、読んだ人もいることだろう。かく言う小生は読んでいないので、なんとも言いようがないが、非常に面白いという評判だ。フェデリコ・フェリーニが1976年に作った映画「カサノヴァ」は、その回想録から特に興味深い部分を抜きだして、かれの自由奔放な生き方を描いた。まさにカサノヴァのウィタ・セクスアリスである。

カサノヴァはベネツィアの出身だ。ベネツィアでもすでにプレイボーイとして有名だったらしいが、後フランス、オランダ、イギリス、スイス、ドイツなどを転々とし、行く先々で熱烈なウィタ・セクスアリスを生きた。映画は、そのエッセンスを紹介しているのである。

まず、出身地のベネツィアでの出来事から始まる。ここでかれは宗教裁判にかけられ、有罪を宣告されて牢に収監される。罪状が婦女誘惑ではなく、異教崇拝だというところが面白い。しかし首尾よく脱獄したカサノヴァは、パリに赴き社交界の人気者になる。当然女たちからも愛される。面白いのは、デュルフェ公爵夫人という高齢の女性が、彼の子を授かりたいと迫ってくるところである。カサノヴァはその希望を受け入れて、公爵夫人に種を授けてやるのである。

イタリアのパルマに戻ったカサノヴァは、アンリエットという女性に恋をする。カサノヴァはアンリエットに夢中になるが、アンリエットは忽然と消えてしまう。傷心のカサノヴァはロンドンにわたり、そこでテームズ川に入水して自殺を試みる。女たちからインポテンテと罵られたのが直接の原因だった。すると川岸に、二人の小人をともなった巨人女の姿を見る。変わった女には目のないカサノヴァは、自殺をやめてこの巨人女につきまとう。この女は身長が二メートルもあって、どんな男も腕相撲がかなわない怪力なのだ。どちらかというと非力なカサノヴァもやすやすとねじ伏せられてしまう。

ローマに移ったカサノヴァは、教皇に拝謁する。教皇庁は風紀が乱れていて、毎夜どんちゃん騒ぎが続いている。その騒ぎにカサノヴァも加わり、馬車の御者で精力絶倫というリゲットと、射精の回数を競う。カサノヴァは気に入った女の上に馬乗りになって、せっせと腰を動かす。その努力が実って、カサノヴァは勝利するのだ。そんなカサノヴァを、ブランド公爵は、すぐれた種馬だといって褒めたたえるのである。

スイスのベルンを経てドイツのドレスデンに行ったカサノヴァは、そこで偶然母親と会う。母親はカサノヴァをドラ息子と言って罵るが、カサノヴァは気にしない。母親の住所も聞かないで別れてしまうのだ。そのドレスデンでは、ムーア人の宿を訪ね、そこでも勢力絶倫ぶりを披露する。

オスロで病を得たカサノヴァは、ヴュルテンベルグにやって来る。ここでカサノヴァは、生きている女ではなく、女の人形に慰めてもらう。いまでいうダッチワイフのことだろう。そのダッチワイフが、ただ抱かれるだけでなく、自分からも動き回るのだ。その人形とのやりとりが、是枝の映画「空気人形」を思わせる。是枝の空気人形はペ・ドゥナが演じていて、なかなかファンタスティックなイメージだったが、この映画の中の人形は、怪しい雰囲気を振りまいている。

ついに老い果てたカサノヴァはボヘミアにやって来る。土地の貴族の居候といった身分だ。居候なので、周囲から大事にされていない。一番不満なのは、好物のマカロニを食わせてもらえないことだった。そこでカサノヴァは、「マカロニを食わせろ」と叫び続けるのだが、その様子は、前作「アマルコルド」で、樹上から「女が欲しい」と叫び続けた男を思わせる。

こんな具合でカサノヴァの自由奔放なセックスライフを、実に祝祭的な雰囲気で描いている。その祝祭感は、「8 1/2」以来、フェリーニ映画を彩りつづけたものだ。




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