壺齋散人の 映画探検 |
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小栗康平は寡作な作家で、監督として生涯に作った映画の数は、わずか六本しかない。しかしそのすべてが珠玉のような光を放っている。特に処女作である「泥の河」は、日本映画史を飾る傑作と言ってよい。この映画は、1961年の日本を描いたものだが、高度成長の始まりにあたるこの年になっても、日本にはいまだ絶対的な貧困がはびこっていた。この映画はそうした貧困のなかで、必死に生きる日本人たちを描いたもので、これが公開された1980年代には、すでに遥か過去のことだったにもかかわらず、これを見た日本人たちの心に訴えかけるものがあった。 |
ついで1984年に作った「伽耶子のために」は、これも「泥の河」とほぼ同じ時代を背景にして、日本に生きる韓国・朝鮮人たちを描いたものだ。これらの在日コリアンと呼ばれる人々は、日本人の最低ラインより更に低い生活を強いられていたということが、この映画からはよく伝わってくる。その中で、伽耶子という日本人少女が、在日コリアンの養女として、二つの民族のかけ橋のような役目を果たしているところが描かれる。 小栗康平が1980年に作った「死の棘」は、島尾敏雄の自伝的な小説を映画化したもので、精神を病む島尾の妻と、それを見守る家族たちの日々を描いた。島尾の妻を松坂慶子が演じているが、その演技がなかなか真にせまっているのが印象的な作品である。 ついで作った「眠る男」は、文字通り眠り続ける男を描いたものだが、大したストーリー展開があるわけでもないにかかわらず、映画として成功した。また、その次の作品「埋もれ木」は、三人の少女たちが見たファンタジーをそのまま映像にしたという触れ込みで、まともな筋書きはなく、映画の常識を逸脱したところがあった。そんなことからこれを、小生などはアンチ・ムーヴィーと批評している。小栗康平の最新作は、2012年公開の「FOUJITA」で、パリで活躍した日本人画家藤田嗣治を描いた作品だが、小生は未見である。ここでは、小生が見た限りでの小栗作品を、鑑賞のうえ適宜解説・批評を加えたい。 泥の河:小栗康平のデビュー作、少年の友情を描く 伽耶子のために:在日コリアン社会を描く 死の棘:島尾敏夫の自伝を映画化 埋もれ木:少女たちのファンタジー |
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