壺齋散人の 映画探検
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中島哲也「告白」:娘を殺された母親の復讐劇



2010年の映画「告白」は、幼い娘を殺された母親の復讐劇である。その復讐というのが、実に陰湿なものであり、見ていて胸糞が悪くなるテイのものである。だから、大方の観客はマイナスのイメージをもったと思うのだが、なかにはプラスのイメージをもったものも多くいた。そういう連中が何を感じてこの映画を面白いと思ったのか、小生には想像がつかないが、そういう人間が多くいるということは、社会がかなり病んでいることの現れだろうと思ったりする。

娘を殺されたのは中学校の女教師、殺したのは彼女の担任の男子中学生だ。その中学生は、少年法に保護されて刑罰を受けることがない。それに憤懣した女教師が、かれらに私的制裁つまりリンチを加える。そのやり方があまりにも陰惨なので、見ているほうとしては、胸糞が悪くなるのを禁じ得ないというわけである。

全編暴力が蔓延している。また舞台となった中学校は完全に学級崩壊していて、生徒たちは手の付けられない状態だ。そんな担任クラスの状況に絶望しながら、女教師はどうしたら、もっとも残酷な方法で犯人の生徒たちを罰することができるか、それを考えながら、効果的なリンチを追及し続けるのだ。彼女の計画は図に当たり、一人は心を病んだ挙句母親を殺害し、もう一人は殺人事件を重ねる。その一つは自分自身の母親を殺すことだった。

そんな犯人たちの陥った状況を見て、女教師はほくそ笑む。復讐が成功して、溜飲を下げるのだ。ただそれだけの話で、別に深い意味もなさそうである。日本社会をどうしようもなく壊れてしまったととらえる視点がないわけではないが、趣旨はもっぱら怒れる女の復讐だ。こんな女ににらまれたら、どこにも逃げ場がないといった恐ろしさを感じさせる。だからこの映画は、スリラー映画のジャンルに分類した方がよい。現代のお岩さんが、自分を貶めたものに、恐怖の制裁を与えるのである。




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