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福澤克雄「祈りの幕が下りる時」:殺人事件の真相に迫る



福澤克雄の2018年の映画「祈りの幕が下りる時」は、殺人事件の解明をめぐる推理ドラマである。非常に手の込んだ筋書きで、最後まで事件の真相がわからない。担当の刑事まで迷宮入りを予想するくらいなのだが、一刑事の執念が事態を明らかにする。その刑事(阿部寛)は、事件に密接なかかわりを持った女性の息子だった。それがかれに事件を解明させた、というような内容の作品である。原作は、人気作家東野圭吾である。

東京の下町で二件の殺人事件がおきる。警視庁が捜査に乗り出し、ある刑事(溝端淳平)が担当になるが、皆目見当がつかない。そこで所轄署に在籍している従兄の刑事(阿倍)の力を借りてかぎまわった結果、二つの事件は同一犯によるものと推測し、容疑者らしいものも割り出す。ところが、その容疑者は白だったことがわかる。

二人は頭と足を使って真相に迫っていく。かなり複雑な展開ぶりで、いちいち詳しく言及するのもはばかられるので、ごく簡略化していうと、犯人は一組の父娘だった。父親が一人の女を殺し、娘がその父親を殺したのだ。原因は過去を知られたくないということだった。この父娘には悲惨な過去があって、それをひた隠しにしてこれまで生きてきた。その過去がある女の登場によってばれそうになり、それを恐れた父親がその女を殺す。殺人を犯して絶望的な気分になった父親は自殺をはかる。そんな父親の自殺を娘がほう助する。ともあれ、かれら父娘をそこまで追い込んだのは何だったのか、そんなことを考えさせるように作られている。

そんなわけでかなり高度なゲームを見ているような気分にさせられる映画である。阿部演じる刑事が事件の核心となるのは、かれが自殺した男(父親)とかつて一緒に暮らしていた女の息子だったからである。その息子に、自殺した男の娘が強い関心をいだく。自分の父親が愛した女を、その息子を通じて偲びたいと思ったのだ。それが娘にとっては命取りになり、迷宮入りかと思われた犯罪も、明らかにされてしまうのだ。

娘を、年齢に応じて三人の女優が演じ分けている。成長した娘の役は松島菜々子が演じている。彼女の父親に対する愛情は、すさまじいものがあり、それが見る者に強い印象を与える。




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